154カオス スピード感

 このエッセイ、NHKEテレの「100分de名著」からはじまっていますが、最近は見ることができていない。今月は谷崎潤一郎。ビデオに録画しているはずなのにないなあと思っていると、奥さんが片端から消していたと判明。


「それ録ってたん? 見てないんやと思ってたわ」


 あなたと息子がテレビを独占しているから旦那は録画したビデオを見ることができないんですよ!


 そもそも息子が起きている時間は、息子が見る番組以外テレビをつけないし、寝てしまってからは奥さんが独占する。わたしがテレビを見ていられる時間はほとんどないのが実態です。


 だから、スマホでYouTubeをチェックするくらい。


 スマホ。

 YouTube。

 Bluetoothイヤホン。


 みっつあれば、家族に迷惑をかけずに夜の明けきらぬうちから洗濯、食事、食器洗い……しながら、動画が見れます。いつもそうしながら「100分de名著」をチェックしてます。


 今回は、エンデ『モモ』について。

 例によって、わたしは『モモ』未読でした。『はてしない物語』は読んでますが、よく分からなくて。


『モモ』は、不思議な女の子「モモ」が人間たちから時間を奪っている「時間泥棒」から時間を取り戻そうとする話――らしいです。あってますよね。


 ここ数年、何度も考えるようになったのですが、世の中からどんどん時間がなくなってるように感じます。個人的には、そろそろ限界かなと思うくらい。


 原因は、パソコンです。タブレット端末やスマホもそう。コンピュータがわたしたちから時間を奪っている。


 昭和の時代の、いや平成に入ってしばらくの間も、わたしの職場(役所ですが)は紙にペンで書類を作成していました。当時、すでにワープロはありましたが使っている人は少なく、先進的な人と見られるよりはむしろ「変わった人」と見られ、蔑まれていました。


 役所が扱う各種統計資料の作成も、表計算ソフトというものがなかったので(あっても職員ひとりひとりに行き渡らないので)、各人が電卓片手に作成していました。もちろん、ひとりで計算するとヒューマンエラーが起こりやすいので、統計数値は、あらためて別の人に検算してもらうのが常識でした。


 そんな時代の事務仕事のスピードは当然ながら現代とは比べものにならないくらい遅く、非効率的でした。

 いまなら文書作成はWordで、表計算ならExcelでさくっと作れます。ちょっと大袈裟ですが、ルーチンワークならテンプレに合わせてものの10分くらいでしょう。昔なら大人二人が一日かけてこなしていた仕事が、たったひとりでです。


 8時間かけてこなしていた仕事が、10分でできるというのは、いいことなのか、悪いことなのか。


 以前のわたしは、それはいいことと信じて疑うことがありませんでした。だって、7時間50分も余剰時間ができるんですからね。


 でも、そうじゃなかった。

 7時間50分、遊んでいられるならhappyですよ。そうじゃない。その時間に別の仕事を割り当てられるのです、当然ながら(笑)


 コンピュータを駆使して、効率よく仕事をこなすと、また別の仕事を効率よくこなすように求められる。


 テクノロジーは日々進化し、作業効率は上がるのですが、それに伴って仕事の依頼主から期待される仕事量も上がってしまう。イタチごっこですよ。


 コンピュータのこなす仕事量は増えますよ、これからもきっと。でも、人間が一日にこなす仕事量としては、そろそろ限界に近づいているような気がします。実際、求められる仕事量に見合った仕事がこなせない人をちらほら見かけます。


 こういう人は、コンピュータを使っている人ではなく、コンピュータに使われている人といっていいでしょう。きっと幸福度は低いでしょうね。


 そうなんですよ。

 結局、効率的に時間が使えるかどうかということは、人生にとって大事なことではないということです。一番の問題は、その人が幸福かどうか。


「早く宿題を済ませなさい」

とか

「早くごはんを食べなさい」

とか


 子どもにはいってしまいがちですが、じつは時間というものは、その使なのであって、時間に余裕があるとか、効率的に使うことが大切なのではありません。


「宿題を済ませたら、キャッチボールしよう」

とか、

「ごはんのあと、一緒にお風呂に入ろう」

だとか、


 じぶんとだれかで作りあげる気持ちの良い時間(「しあわせな時間」と言い換えてもいいかもしれない)こそが大切なのではないか……と考えてます。


 8時間の仕事を10分でできるようになっても、しあわせな時間が増えないのであれば、それは努力の方向が間違っている。いかに効率的に生きるかではなくて、いかに気分良く生きるか、そう考える方向に頭のスイッチを切り替えなければならないときに差し掛かっているのではないか。


 ――なんて考えるのですが、じっさいは難しいですよね。だって、高速道路でちんたら走ってると煽られるんですよ? 仮に時速40キロで走ってたとすると、人が走る三倍くらいの速さで走ってるわけです。

 三倍では遅くって、五倍も六倍もスピードを出せってわけです。なんて狭量であさましい時代なんだろう。


 スピードはしあわせですか。

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