145カオス 病室と本
数年前に101歳で亡くなった祖母は大の医者嫌いで、病院に行くことを極度に嫌がる人でした。元来が丈夫な人で、結局ほとんど医者らしい医者に通うこともなく天寿をまっとうしました。
――怖くないで。
うちの奥さんも、人には病院で診てもらえというくせに、自分から絶対に病院へ行こうとはしません。健康診断の受診すら嫌がります。
――病院で診て貰えばいいのに。
わたしは病院が嫌いではありません。むしろなにか理由があれば入院させてほしいと思うくらい、入院病棟の雰囲気が好きです。
消毒液の匂い。
静かな廊下。
暗い病室。
……なんて、昭和なイメージ!(笑)
子どもの頃、わたしは何度か入院しています。股関節炎を発症して歩けなくなったのが二度、髄膜炎で発熱して一度です。
生来の怠け者であるところのわたしは、天下晴れて(?)小学校を休めることがうれしくて仕方がありませんでした。看護婦さんは優しいし、母親は付き添いしてくれるし、病院はわたしにとって
入院病棟って、学校に似たところがあるんですよ。自分の意思とは無関係に一定数の人間が一か所に集められる――そっくりでしょ。入院患者にはいろいろな人がいますが、それもまた学校の同級生がいろいろいるのに似てておもしろいです。
入院生活は退屈です。
いまのように携帯電話やゲーム機がある時代ではありません。病室にテレビはありましたが、料金箱が付いていてお金を払わないと見ることができないのです。
「テレビが見たい」「だめ」
十回言って一回くらいでしょうか、母親がテレビを見せてくれたのは。
(おかげで、いまだに病院のテレビには愛憎相半ばするものが……)
基本的に入院している間はすることがなく、ベッドの上で横になっているだけ。白い布団カバーを見ているか、これまた白い天井を見上げているか、白い壁を見ているか三者択一です。
まさか白い壁ばかり見ていては、別の病気になってしまうので、入院患者はほぼ例外なく本を読みますよね。小学二年生だったわたしの印象に残っているのは、ふたつ。
① レオ・レオニ『スイミー』
これは教科書に載っていたお話ですね。入院中もちょっとは勉強しなければならなかったんでしょう。
超有名な絵本なのであらすじを書くまでもないと思いますが、小さな赤い魚の群れに一匹だけの黒い魚――このイメージが「スイミー」です。
わたしこの頃から、もうすでに自分はみんなと違うっていう考えにとりつかれてて、『スイミー』がすとんと胸に落ちてくるんですよ。入院とともに忘れられないですね。
② コナン・ドイル『恐竜の世界』
名探偵シャーロック・ホームズシリーズの著者として有名なアーサー・コナン・ドイルの『失われた世界』を子ども向けにリライトした本です。
絶滅したはずの恐竜を求めて南米ギアナ高地に探検に出かけるというSF冒険活劇。おもしろい。コナン・ドイルは、おもしろい小説を書く才能に溢れた人だと思う。
シャーロック・ホームズの作者として数年後に出会いなおすことになりますが、小学二年生の頃からコナン・ドイル読んでたんだなと思うと感慨深いです。
わたしもトシですし、また入院したりするかもしれません。そのときはどんな本に出会うでしょうか、楽しみなような、そうなってほしくないような……。
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