139カオス 個性の代償

 このエッセイ、濃い味の回と薄い味の回があるなと、書いてる本人のわたしでも感じているのですが、今回は濃い話。「ああ、藤光の濃い話は嫌いだよ」という方はスルーしてください。本人が書きたいから書いてるだけなんで。



 このあいだ図書館へいって、息子は昆虫の本を、わたしは『青春ノ帝国』を借りた話を書きましたが、そのとき同時にマンガ関連の本も借りました。いまの図書館はマンガも置いてあるんですね。本屋さんのマンガコーナーのようにはいきませんが、時代は変わりました。


 借りたのは、ゆうきまさみさんの画業35周年を記念したムックと『つげ義春 夢と旅の世界』という本です。


 ゆうきまさみさんは、『機動警察パトレイバー』『鉄腕バーディー』といった漫画で有名な作家さんです。とにかく彼は絵が魅力的。いや描く線が官能的って感じでしょうか。


 ゆうきまさみさんについて書き出すと、これまた終わらなくなるので、今回はやめときます。今回はつげ義春さんについて書きたいんです。


 つげ義春さんは、こちらも漫画家です。代表作は『ねじ式』『紅い花』『ゲンセンカン主人』などかな。60年代シュールな作風で一斉を風靡した漫画家さんです。もちろん、わたしは生まれてもいません。ただ、つげ義春さんのシュールな漫画は、漫画界の分水嶺のひとつといっていいくらいの影響力があり、代表作『ねじ式』は、のちの世代の漫画家さんから無数のオマージュとパロディが捧げられている傑作です。


 ところで『ねじ式』がおもしろいかというとそれはまた別の話ですよ(笑)率直にいって、わけわからない漫画といって間違いありません。西洋絵画でいうと、ピカソ『ゲルニカ』やダリ『記憶の固執』は率直にいってわけがわからないじゃないですか。でもなんかすごいでしょう。


 それを漫画ではじめてやったのがつげ義春さん。だからつげさんは同業の漫画家から尊敬されているし、『ねじ式』は傑作なんです。



『つげ義春 夢と旅の世界』には、そんなつげ義春さんのインタビューが載ってるのですが、一般的価値判断からすると変わってる。


 82歳。

 ひきこもりの息子を世話している。

 もう漫画は書いていない。

 生きるための生活に追われている。

 人づきあいはない。

 いろいろと病んでいる。

 地デジ切替以来テレビも見てない。

 なんとか印税で生活できている。

 ときどき死亡説がながれる。


 なんてことがホントかうそか書いてあって、気の毒な人なのか、すごい人なのか……間違いなく変人です。


 わたし以前このエッセイで「変人」になりたかったと書いたように、ホントは変人でいたいんですよ。ただ、社会生活を送る上で変人だと支障が大きすぎるので普通の人をやってるだけ。あこがれるなあ。


 インタビュー読んでいても、漫画を読んでも思います。生きづらいんだろうな〜と。自分らしく生きようとすると、「それは変だ」とか「意味がわからない」とか「なぜそんなことするの」と言われ続けてきたと思うんですよ。一般の感覚からはズレてて、どうしようもなくズレてしまう。そうした思考法、行動様式の人なんだと思います。


 ――どうせ、おれのことを分かってくれるヤツなんていないんだ。


 唯一無二の個性をもってるが故に誤解され、受け入れてもらえない男の苦悩を、その世捨て人のような生き方に強く感じた本でした。

 つげ義春すげー。

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