137カオス 中途半端はよくない

 空中に伸びた一本の枯れ枝にもず(鵙)が留まっている――『枯木鳴鵙図こぼくめいげきず』という絵を知っているでしょうか。江戸時代初期の宮本武蔵の手になる水墨画です。武蔵の絵画作品としてはもっとも有名なものの一つで、重要文化財にも指定されています。

 武蔵は、絵師としてだけでなく、文筆家としても名を知られており、なかでもみずからが編み出した二天一流兵法の解説書『五輪書』は特に有名です――。




 という書き出しではじめてみましたが、これはもちろん、宮本武蔵のことです。

 剣豪といえば、宮本武蔵か佐々木小次郎しか知らないという人は多いはず。逆にいえば、剣豪、宮本武蔵を知らない人はいないというくらいの人物が、武蔵なのですが、彼が絵を描いたり、文章を書いたりする人だということはあまり知られていません。


 わたしも知らなくて、『枯木鳴鵙図』を知ったのは、いい大人になってからです。見てびっくりしました。素人離れしためちゃくちゃ上手な絵なので……。マッチョな剣術バカが描いたとは思えませんでした。というか、武蔵は剣術バカだったかもしれないけど、それだけじゃなかった人なんでしょうね。


 それと同時に思ったのは、宮本武蔵という人は、たしかに一流の剣術家だったかもしれないが、超一流の剣豪ではなかっただろうなということです。


 文武両道ってあるじゃないですか。

 でも究極的には欺瞞ですから。


 もちろん、勉強もスポーツもがんばることは間違っていないし、両方よくできる人もいますけど、超一流になるというのとは別問題。

 東京大学を卒業したメジャーリーガーいないじゃないですか。プロバスケットボール選手がノーベル物理学賞をとることはないでしょう(笑)


 宮本武蔵はそういう意味で中途半端な人なんですよ。器用貧乏? そう、それもかなり高いレベルの。


 なんで今日、宮本武蔵のことを書こうと思ったのかというと、わたしずーっとレベルの低い「宮本武蔵」なんですよ。絵描かないですけど、ちょっと剣道できて、こうやって文章を書いて、要するに中途半端なんです(笑)


 大人になって、自分の半生を振り返ったときに反省することは、「中途半端はよくない」ということに尽きます。

 文武両道のスローガンをまに受けて、スポーツに手を出し、勉強も適当にやって……なんていうのは、器用な人には良いかもしれないが、わたしのような不器用人間には有害以外の何物でもないです。

 スポーツならスポーツ。勉強なら勉強。小説を書くなら小説を書く。一意専心した方がずっとその人の人生を豊かにすると思います。


 宮本武蔵は、安土桃山時代末期に前半生が重なる人なので、若い頃は戦で武功をあげて、いずれは一国一城の主になるという夢を抱いていたはずなんですよね。

 でも、数えきれないほど他流仕合に臨んで敵を倒し、戦に出て戦かった結果、大名になることはおろか、一介の剣術家として人生を終えることになるわけじゃないですか。不本意だったと思います。


 不世出の剣豪とわたし自身を比べるのは、おこがましいにも程があるのですが、人生って不如意、不本意だなあと感じたので今日のようなエッセイになってしまいました。


 ま、中途半端人生まっしぐらですよ。

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