132カオス 小説のなかの青春
前回、本と出会う場所として本屋さんのことを書きました。わたしがもっともたくさんの本と出会ったのが本屋さんだったからなのですが、わたしが本屋さん以前にたくさんの本と出会い、読んできた場所があります。
図書館です。
図書館での本との出会いは、本屋さんでのそれとは少し趣が異なります。わたしの抱く図書館のイメージは……
静かさに満ちた空気
屹立する書架
本の匂い
そこにやってくる人たちは、そうした図書館の本のあいだをゆっくりと考え深げに、背表紙を指さしながらただよいさまようのです。
先日もわたしは図書館を漂っていました。一緒にやってきた息子は自分好きな昆虫の本を漁りに別の書架へ行ってしまってひとりです。
ひとりの方がゆっくり本を探せます。さて――。
児童書の書架を物色します。
息子の読む本を選ぶためです。
昆虫好きの彼は、あまり本に興味はありません。わたしが虫捕りに先んじて幼い彼を図書館に連れてきてあげていたにも関わらず、です。物語にはなかなか興味を示さず、夜、奥さんが読み聞かせる本は、わたしが選んでいるのです。
図書館には、本屋さんにない本がいろいろとありますが、そのひとつが児童書です。児童書の蔵書は図書館が本屋さんを圧倒しています。わたしは息子のために絵本を選ぶことが多いのですが、本屋さんに置いてある絵本は数が少ない上、売れ筋の人気作ばかり。図書館には「なんだこれ?」という珍しい絵本やマイナー絵本、何十年も前から読み継がれている名作絵本までよりどりみどりで揃っています。
それから、小学校高学年や中学生に向けた読み物も図書館の方が充実しています。本屋さんでは、店頭に並んでいるのか並んでいないのか、あまり姿を見かけることがありません。図書館にはしっかり入ってますけどね。
『青春ノ帝国』(石川宏千花 あすなろ書房)は、そんな中学生向けの読み物です。
が、これを手に取ってしまうのは、中学生よりむしろ中二病をこじらせた大人の方が多いんじゃないかというタイトルです。現に、わたしは引き付けられるようにして手に取りましたからね(笑)もー、魅力的。
内容は、これぞ思春期という感性でいる「嫌な性格」をした女の子が、自分とは異なった価値観をもった人たちと関わるなかであるべき自分に気づき、やがて変わっていくという――王道過ぎやしないかという物語。根暗な思春期の女の子の心理描写が抜群で一気読みしてしまいました。これはいいものを読んだ。
タイトルにある「帝国」ってのがまた、根暗で内向的な中学生の心理描写として秀逸。まだ自意識ばかりが強い中学生は、自分の中に自分だけの「帝国」を作りがちでしょ。もちろん、帝国を支配する皇帝は自分自身で、支配される国民も自分自身なんですよね。
自分で作り上げた帝国に、かえって自分自身が苦しめられるのが思春期。そして、いろいろな経験を積むうちに、たったひとりの帝国は鎖国状態から国を開き、やがて大人になっていくんですよ――うまいタイトルだなあ。
いまだに帝国を引きずっているわたしは感心しきりで読み終えましたとさ(笑)侮るなかれ、児童文学。
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