131カオス まぼろしの本屋さん

 みなさんは読んでいる本をどこの本屋さんで買っていますか。わたしは「ジュンク堂書店」か「喜久屋書店」で買うことが多いです。


 今回、エッセイを書くにあたり、検索してみてはじめて知ったのですが、この本屋さんは、もともと一つの会社から分かれたふたつの本屋さんらしく、わたしは結局ほとんどの本をジュンク堂で買っているのと変わらないようでした。わたしの生活圏では確実に書店の寡占化が進んでいます。さびしいと同時に、とてもつまらなく感じます。


 つまらない。


 そう。つまらなくありませんか? 街の本屋さんが次々となくなっていって、郊外のショッピングモールにテナントとして入っている書店や街の駅近くに広い売り場面積を持った大規模書店ばかりになっていくことが。みんなおんなじ。


 かつての本屋さんは、それぞれカラーがあった。それも書店が演出したものではなくて、客が作り上げていったカラーが。今回はそれらを、わたしの思い出の中から掘り起こし並べてみようと思います。


 わたしが本屋さんに通うようになったのは、高校生になってから。田舎に住んでいた中学生までのわたしの生活圏には、本屋さんがなかったのです。自転車に乗って街の高校へ通うのですが、街には地元にない本屋さんがたくさんありました。

 本好きではあったものの「本は図書館で借りるもの」というイメージばかり持っていたわたしが、「いつでも好きな本が買えるじゃん!」とテンションが上がったのも無理はありません。バブル崩壊もインターネットもまだ姿を見せていない、世の書店経営のみなさんがもっとも安逸を貪っていたまさにその頃のことでした(笑)


 本屋さんの個性は、客が作る。その個性に応じて買う本も変わる。それが本屋をハシゴするわたしの楽しみでした。


 駅の近くにあるA書店は、とにかく混んでいます。学校帰りの学生や待ち合わせに利用する女性たち、仕事帰りのサラリーマンが電車の時刻まで短時間利用するので、非常に忙しない。落ち着いて本を探す雰囲気がないので、ここに行くことはあまりなかった。それでも最初にわたしが本を買ったのはここで、ゲームブックに出会ったのも最初はここでした。


 商店街の真ん中にあるB書店。A書店から二百メートルほど駅から離れるだけで、客はずっと減ります。店内を奥に入ると商店街の感想からも離れて静かです。古びた書架の前でダニエル・キイスや司馬遼太郎に出会ったのはこの本屋でした。毎日のように立ち読みして帰ったなあ。パソコン黎明期でもあり、パソコン雑誌というものにはじめて出会ったのもここでした。


 高校から帰る途中にあるC書店のターゲットは、もちろん高校生。狭い木造の店舗が二棟続いて並んでいて、所狭しと背の高い書架が並んでいた。主力商品はマンガだ。その頃はまだその呼び名がなかったラノベも充実していて、魔群惑星シリーズとかここで買ったなあ。


 商店街の外れにあるD書店は、マニアック。どことなく薄暗い雰囲気が漂う店内にはエロ本が充実している。すっぽんぽんの女性のグラビアが載ってる正統エロ本はもちろん、なにこれ? とわたしがショックを受けたゲイ雑誌や、エロ漫画の単行本が並んでいる。普通の街の本屋さんだが品揃えにやや偏りがある(笑)ただ、ここなら誰でも平気な顔してエロ本を買うことができる――得難い本屋さんだった。


 このビルに入っていた本屋さんも、あの交差点にあった本屋さんも、いつの間にかみんな廃業しています。いまは、わたしの思い出のなかにだけ建っている幻の本屋さんとなってしまった……。



 大人の昔話ほど聞くに耐えないものはない。この辺でやめておこうと思いますが、いまある本屋さんもいつ廃業するかわかりません。いまのうちにせいぜいジュンク堂に通っておくことにします。でも、あの売り場の広さはなんとかならないもんですかね。本を探してるのか探検してるのか……。あ、それが魅力のジュンク堂でしたね。

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