118カオス おいしい小説

 世のなかには、二種類の人がいる。

 食べ物にこだわりのある人と、こだわりのない人だ――。


 三十年前の、日本経済がバブルに浮かれていた時代、「食い物にこだわらずにいられないんだ‼️」という漫画が一世を風靡しました。国民的グルメ漫画として有名な『美味しんぼ』ですね。


 知ってのとおり(?)『美味しんぼ』は、架空の新聞社「東西新聞」文化部のお荷物社員、山岡士郎がその鋭敏な味覚と、卓越した料理の腕を駆使して、古今東西の料理のなかから「究極のメニュー」を作ろうと奮闘するお話です。料理やその食材にまつわる人々の思いを掘り下げ、料理がつなぐ人と人の関係――食文化そのものを丁寧に描くことで、単なるグルメ漫画を超えたドラマとして大ヒットしました。


 世代的に、どストライクであるわたしも『美味しんぼ』大好きです。第一話のカタルシスは、おちこぼれを自認するわたしには最高に美味でしたし、(単行本はそれほど買い集められなかったかものの)アニメは何度も繰り返し観ました(YouTubeありがとう!)。こと「食」に関しては、『美味しんぼ』に教えられたことがたくさんあって、数えきれないほどです。


 ただ、今日は『美味しんぼ』の話じゃないんです(笑)


 近藤史恵さんの『マカロンはマカロン』(創元推理文庫)読み終わりました。おもしろかったです。

 内容は、下町の小さなフレンチ・レストランで起こる日常の小さな謎を、探偵役のシェフが解いてゆくというライトミステリです。「ビストロ・パ・マル」シリーズの第三巻。


 すでにシリーズの既刊は読んでいて、「おもしれーなー、あいかわらず」と楽しめたのですが、読んでいて、ふと、


 ――これって『美味しんぼ』じゃね?


と三巻目にして、やっと気づいたのでした。


 もちろん『美味しんぼ』はミステリという体裁ではありませんが、ストーリーラインは、主人公の山岡士郎の周囲で、何か問題が起こり、山岡が料理の知識と腕で読者が思いもつかない解答に導くというのが基本。これはライトミステリの構造そのものですよね。


「ビストロ・パ・マル」シリーズは、フレンチ・レストランが舞台であり、起こる出来事は「食」に関わることばかり。フレンチにまつわる謎をシェフが解いてゆく展開は、まったく、『美味しんぼ』。山岡士郎の役回りが、シェフ、三舟忍に代わってるけれど、フレンチに対する造詣の深さや、一見ぶっきらぼうで反面情にあついキャラ作りも、めっちゃ似てます。


 この国民的グルメ漫画そっくりのミステリがおもしろくないわけがない。とてもおもしろい。物語の構造はそっくりでも、雁屋哲さん(『美味しんぼ』の原作者)と近藤史恵さんの問題意識は違うので、物語の味わいが違うところも魅力的で楽しめますね。短編集なので、比較的短い時間で一話ずつ読めることころもおすすめです。






 え、わたしと「食」ですか?

 大丈夫です。

 三度の食事がコンビニ飯とカップラーメンでなんの問題も感じないタイプです!

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