102カオス おもしろくなかった、と断じる前に

 NHKで『銀河英雄伝説 Die Neue These』観てます。おもしろい。がんばれNHK。この国アニメを支えているのは公共放送だ――。いきなり脱線。世代的に私は旧アニメシリーズのファンで、ノイエ銀英伝のキャラクターデザインは、いまいちしっくりこないのですが、艦隊戦のシーンは超美麗でうれしくなります。旧シリーズの艦隊戦は残念な部分だったので……。


 と、『銀河英雄伝説 Die Neue These』は、田中芳樹さんの小説を原作にしたアニメです。『銀河英雄伝説』は88年に最初の、アニメ作品が作られていて、30年ぶりの「新訳」銀英伝として、原作ファン、アニメファンの間で話題です(だと思います)。


 銀英伝は、宇宙を舞台に二つの政治勢力が、銀河の覇権をかけて合い争う様子を描いたスペースオペラ(SFの1ジャンルで、宇宙を舞台にした冒険活劇をいうことが多い。本来的にはSFをバカにしたニュアンスを含む言葉)で、ふたりの主人公、ラインハルトとヤン・ウェンリーは、もちろん、主要キャラがのが魅力のひとつ。そう。銀英伝ファンの人たちは、推しメンをそれぞれひとりは持ってる。私はオーベルシュタイン推しです(分からない人は分からなくていいです)。


『銀河英雄伝説』は中国でも人気が高い。その理由のひとつが、主人公のひとりヤン・ウェンリー。ヤン・ウェンリーとはすなわち楊威利と書き表されるように、中国系の名前なのは明らか。不敗の魔術師といわれる主人公が中国系なのは、中国の人のプライドをくすぐるのかもしれません。


 劉慈欣『三体Ⅱ 黒暗森林』(早川書房)を読み終えました。上下巻、読み応えありました。疲れた。


 作中、作者の劉慈欣さんは『銀河英雄伝説』の中でヤン・ウェンリーが語ったセリフを、登場人物に引用させます。劉慈欣は、歴史的文豪や、世界的著名人の言葉を作中のいろいろな箇所で効果的に引用してみせるのですが、それらと同じレベル(たとえばゲーテと同レベル)で引用されるので、一瞬びっくりし、直後、感動させられます。劉慈欣も銀英伝ファンだったのだろうか。


『三体Ⅱ 黒暗森林』がおもしろかったのかどうか。あまり、おもしろくなかった(笑)


『三体Ⅱ』が、どれほどすごいSFなのか。一方で、小説として残念なところはどこか。書きたいですけど、私のほかにも山ほど書かれてそうなので、ここでは別のことを書きます。


『三体Ⅱ』の中には、日本人キャラクターが出てきます。中国のSFなので、主要キャラは中国人なのですが、引き立て役として日本人キャラも出てきます(笑)舞台は世界スケールなので欧米人もたくさん(引き立て役として)出てきますよ。


 前作『三体』はそうでもなかったんですけど、『Ⅱ』は先にあげたヤン・ウェンリー(田中芳樹)のセリフや、太平洋戦争時の日本海軍特攻隊員の言葉とか、より日本の影が濃いように思います。


 また日本の影との関係でいうと、『三体』シリーズの描写にはアニメ的な部分が多い。女性キャラの描写は「これはラノベか?」と錯覚するくらいの美形描写だし、『三体Ⅱ』の異星人(三体人)の探査機を地球の宇宙艦隊が迎え撃つ場面の描写は、銀英伝旧シリーズの艦隊戦のビジュアルそのものです(そしてその後のカタストロフも)。


『三体Ⅱ』は、日本のSFアニメへのオマージュに満ちた小説だと私は読みました。劉慈欣という中国人作家にとって日本という国とその文化の影響は、相当大きなものなのだなと妙に感心することになりました。「宇宙」+「未来」=「日本アニメ」、みたいな。

 ひるがえって日本の作家を考えてみると、現代中国の創作物ってオマージュを捧げる対象にはなり得ないじゃないですか。劉慈欣の文化的片思い(惚れられているのは日本アニメ)が垣間見えるというか、そこが読んでいてとても興味深かったですね。


 おもしろくは読めなかったのですが、『三体Ⅱ 黒暗森林』はすごいSFですよ。第一作『三体』はとんでもない小説で大傑作だと思いましたが、『Ⅱ』はもっと大きなスケールでとんでもない小説です。小難しい理論用語と技術用語を読み飛ばせる人は読んでみるといいと思います。とにかくすごいから。

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