74カオス あなたはGBを知っているか

 新型コロナウイルスに日本列島が翻弄される日々が続いていますが、みんなさんどう過ごされてますか。


 外出自粛とか、接触する人を8割減らせとか、かなり無茶なことをも言われています。「命を守るために」といわれても、正直なところピンとこない藤光です。


 ……かといって、積極的に政府の方針に逆らう行動力もない私は、家でだらだら過ごすことになるわけですが、家にいたらいたで奥さんとか息子とかがいるわけで――落ち着いて本も読めやしないのです。まして小説を書くなど、とてもとても。


 で、エッセイを書こうかなとスマホを取り出したのですが、なにを書こうか。コロナ騒ぎで書店も閉まってしまい読む本もない、どーしたらいいんだ? 昔読んだ本について書こうか。よし、ずっと昔のやつにしてやれ――。


 というわけで、今日の本は林友彦『ネバーランドのリンゴ』(創元推理文庫)です。


 1986年に出版された本なので書店では手に入りません。『ネバーランド――』というくらいなので「ファンタジー」なのですが、小説ではありません。ゲームブックです。


 当時、中高生の間でゲームブックという形態の書籍が大流行しました。


 ゲームブック (Gamebook) は、読者の選択によってストーリーの展開と結末が変わるように作られ、ゲームとして遊ばれることを目的としている本である。(Wikipediaからコピペしました)


 私はそのド真ん中世代で、気になったゲームブックは片っ端から買ってました。ハマったきっかけは『君はエスパー』(桐原書店)という本でした。中学の同級生が貸してくれたんですが、びっくりするほどおもしろくてのめり込みましたね。


 いろんなゲームブックをやりましたが、クオリティの高さとセンスから最終的に創元推理文庫の《スーパーアドベンチャーゲーム》シリーズが私の愛読書になっていきました。


 同シリーズのゲームブックには、スティーブ・ジャクソン『ソーサリー』四部作や鈴木直人『ドルアーガの塔』三部作など、名作が揃っているのですが、それらのなかで一番やり込んだゲームブックが『ネバーランドのリンゴ』だったんです。


 ゲームブックの一番の魅力は、プレイヤー(読者)の選択(またはサイコロの出目)によって、物語が分岐する。場合によっては物語の結末も変わる(プレイヤーが死亡することも含む)。ということに尽きます。ゲームブックをプレイすることで、そのプレイヤーだけの物語が読者の前に現れる(ただし、多分に読者の想像に負う部分が大きい)ことがおもしろさの核心だったように思います。


 これはある意味、と言えるかもしれません。


 読者が主体的に読書に関わる書籍の形で、もっともゲーム性の高いものがゲームブックなのでしょう。


 しかし、ゲームブックは、コンピュータゲームを書籍の形に変えてプレイヤーの前に差し出したメディアという側面が強く、物語や思想を表現するメディアとしてはついに発展することはありませんでした。


 1990年前後から、ゲームブックは書店の店頭から数を減らしていきます。コンピュータゲームの表現力が、ゲームブックをプレイする読者の想像力を超えはじめたのです。同年11月、任天堂がファミコンの後継機「スーパーファミコン」を発売したことがとどめとなりました。ゲームブックは歴史の表舞台から姿を消したのです。


 読み手が行先を選択して文章を読み進めていくというゲームブック独特の読書感覚は、とてもおもしろいものです。コンピュータゲームの代替物として流行していたため、ゲーム機の高性能化によってゲームブックは駆逐されてしまいましたが、ゲーム性ではなく、物語性で読者を惹きつけるゲームブックがあればもっと状況も違ったのかなと今になると思います。


「キミが主人公だ!」


 ゲームブックの帯によく使われた煽り文句ですが、ゲームブックって小説ではほとんど使われない二人称で書かれた文章であることが多い。まさになのです。


 また、ブームにならないかなあ。

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