60カオス 人称の問題

 小説を書くときに、作者がまず直面するものに「人称の問題」があると思います。物語の表現方法として、なにを主語に用いて文章を書くかということですね。


 文章の主語は「私」なのか「あなた」なのか「それ以外のだれか」なのかというのが人称の問題ということになります。


 私 … 一人称

 あなた … 二人称

 上記以外のだれか … 三人称


 というのは、日本語の文法にあるとおり。どれを主語にとって物語を書くかによって、「一人称の小説」とか「三人称の小説」とか呼ばれるのは、数多くある小説の書き方サイトに書いてあるとおりです。


 ここからは、私こと藤光が考える「人称論」になります。へえ、そんなこと考えてんのか〜というテンションでお読みください(笑)




『まずは三人称でしょ』


 ――むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがすんでいました。毎日、おじいさんは山へしば刈りに、おばあさんは川へせんたくに出かけておりました……


 素朴な物語の形式は「ももたろう」のような昔話にも見られるように「三人称」で書かれるものが多いという印象です。


 なんでか?


 それは単純に三人称で書いた方が叙述しやすいからでしょう。

 多くのミステリやSF、ファンタジーは三人称で書かれています。

 私も最初に書いた小説は三人称でしたし、はじめて小説を書こうとする人は、三人称で小説を書くのがいいのではないでしょうか。



『一人称は不自由』


「私」や「ぼく」など一人称を主語にとって小説を書くのは難しいです。なぜかというと、「私」が知りえない情報を文章に盛り込むことができなくなるから。


 三人称にはそういう制約はなく、あたかも神さまになったかのような視点に立って物語を書き進めることができますが、一人称ではそういうわけにはいきません。


 そういう意味では、作者に一層の文章構成力が求められるというのが一人称の小説といえるでしょう。



『二人称はない』


 私は二人称の小説といったものを読んだことがありません。みなさんもそうではないですか?「あなたは〜した」なんて文章の小説を読んだことありませんよね。


 二人称の小説はあるらしいし、チャレンジする対象としてはおもしろそうですが、実際に読まれる小説となりうるかと考えたときには、難しいといわざるを得ないでしょう。



『小説に深みを与えるために―― 一人称』


 三人称は便利な表現方法なのですが、心理描写をしなければならない場面など、読者と登場人物とがダイレクトに繋がる感覚において一人称には劣ります。


 物語というのは、どういう形で差し出されるにしろ結局は、読む人の心に作用するという点は揺るがないわけで、読み手と語り手の感覚をダイレクトに繋げる一人称という手法は、より深い感銘を読者に与える方法としては三人称よりも有効だといえます。


「文学」作品に一人称が多いのは、一人称の小説の方が、三人称の小説より、物語が読者の深い部分に通じやすいという特性があることを示しているのではないかと、私は思っています。


 私は、いまよりもっとダイレクト感をもった小説が書きたくて、一人称で書くのを練習しています。



『一人称のような三人称 ―― 三人称一元視点』


 でも、一人称は「私」の視点を外せないという不自由がどうしても不便。

 それを解決しようとするものが、特定の三人称(誰かの名前)をあたかも一人称のように扱う「三人称一元視点」です。


 これに対して「ももたろう」のような昔話は、主語がおじいさんであったり、おばあさんであったり不特定なので「多元視点」といいます。読者があたかも神様のようにすべてを俯瞰するような視点なので「神視点」ともいえます。


 さて私の場合、「三人称一元視点」は、物語中のある人物のすぐそば(あるいは重なるよう)にカメラを置くよう意識して描写しています。


 メリットは、三人称なので事物の俯瞰的な描写と特定の人物の内面描写を両立して書いても文章が不自然にならないこと、デメリットは、所詮は三人称なので心の表面に浮かんだことは描写できても、心の内面深くを描写するのは無理があるということです。




 どういう人称を使っても小説は書けますし、どの人称が高級(低級)ということはまったくありませんが、自分の技量と描きたい小説のタイプによって、有効な人称、不利な人称というのはあると思います。


 私は「三人称一元視点」が好きで、もっと上手に使いこなしたいと思ってます。そのために、いま一人称を練習してるって感じでしょうか。



 あ――

 四人称ってあったりするんですかね(笑)四次元みたいな?

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