51カオス カクヨム と私たち
以前、近況ノートに『別冊100分de名著 メディアと私たち』(NHK出版)という本ついて書いたことがあります。
これは、メディアに対する信頼が揺らいでいるという危機感のもと企画された、NHK100分de名著の特集番組「100分deメディア論」を書籍化したものです。
https://kakuyomu.jp/users/gigan_280614/news/1177354054891283956
ジャーナリストの堤未果さん、政治学者の中島岳志さん、社会学者の大澤真幸さん、作家の高橋源一郎さん、四人の論者がそれぞれ、メディアに関する一冊の本を持ち寄って、「メディアと私たち」について論じあうという内容の本なので、とても興味深くすばらしい本なのですが、この間、ふらりと立ち寄った書店で、さらに気なる本を見つけました。
『支配の構造 国家とメディア――世論はいかに操られるか』(SB新書)
先にあげた100分de名著『メディアと私たち』の元となったテレビ放映は、放映後、とても評判になったようで、(だからこそ書籍化もされたのですが)『支配の構造』は“二匹目のドジョウ”を狙ったような内容。テーマも執筆陣も同じ、ひとり一冊の「名著」を持ち寄って論じ合う構成も同じ、違うのは出版社くらい――という本です。
『メディアと私たち』の論点は、ウォルター・リップマンの『世論』を取り上げた堤未果さんの論に集約される。曰く「ひと握りのエリートたちによって世論は操作され得る」という、とってもコワい内容で、私たちの住むこの国に蔓延する「空気」がそれを補強しているという、むしろこちらの方が「支配の構造」というタイトルにふさわしい内容でした。
二匹目のドジョウはいるのか? それはどういう形で?
この『支配の構造』は、ある意味もっとコワく、しかし希望を感じさせる内容になっています。これは『華氏451度』を解説した高橋源一郎さんが「つまるところメディアのあり方というのは、その受け手である私たちの望むような形をとる」ということにまとめられます。
たとえば、カクヨム は小説を媒介とするコミュニケーションツール(すなわちメディア)とみることができますが、カクヨムがどう利用されているがというと、多くの場合、利用者が同じ興味を抱いている他の利用者と、特定の小説のジャンルを通じてつながる――という使われ方をしています。
異世界モノ、ラブコメ、BLそれぞれにコミュニティのようなコロニーのようなものが自然と形作られてゆく。それぞれのコロニーには、選別と排除の機能があって「コロニーとはジャンル違いだな」と感じられる作品は、そのコロニーでは疎外され、淘汰されていきます。
いわゆるWeb小説と肌合いの違った一般文芸を志向している作品は、カクヨム では少数派で、カクヨム 内のコロニーどころか、カクヨム 全体から疎外されている現状も見られます。
ミステリーや歴史小説とタグづけされた小説が、中身は異世界モノであったり、ラブコメであったりするのが、カクヨム あるあるのひとつであるのはご承知のとおり。
こうしたカクヨム のあり方は、利用者を特定のコロニーに固定化し、興味の範囲を制限してしまうという、一般的には望ましいとされない状態を補強し続けていますが、これはカクヨム が利用者に強制したことではありません。
サイト自体は器であって、そこに何を入れるのか(なにを投稿するか)は利用者が決めることです。そうである以上この望ましくない状態は、カクヨム 利用者自体が選択と排除を重ねた帰結としてこうなっていると考えられるわけです。
カクヨム から外へ飛び出して、TwitterとかLINEとかのSNSを見回してもらっても、似たようなことがそこここで見られるのではないでしょうか。自分の気に入った情報にしか接したくないという傾向を。そして、それがSNS(これもメディアですね)そのものを性格づけているということを。
小説は書きあげても、人に読んでもらうまでは、文字でつづられたひとりごとであって小説ではありません。
なんらかのメディアに載ってはじめて小説になることを思えば、「メディアのあり方」が私たちWeb作家に無関係なはずがないのです。
『支配の構造 国家とメディア――世論はいかに操られるか』
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