27カオス 私の幻想(ファンタジー)遍歴②

 『ロードス島戦記 -灰色の魔女-』は、いまの「異世界ファンタジー」小説の源流であり、物語のテンプレートを提示した小説です。


 去年だったか、読み返そうとしましたが、記憶にあるよりシンプルな物語に「あれっ、こんなあっさりした小説だったっけ」と驚きました。私の脳内ではもっと立派な小説らしい小説にすり替わっていたのでした(笑)


 小説の出来栄えはともかく、ゲーム化、アニメ化、漫画化と――メディアミックスの先駆けとしても成功した『ロードス島戦記』は、後に続く異世界ファンタジー作品のベンチマークとなりました。この小説が異世界ファンタジーの源流となりえた所以です。


 この頃、小説界隈に『ロードス島戦記』以外の異世界ファンタジーがなかったわけではありません。

 渡邉由自さんの『魔郡惑星シリーズ』が、『ロードス島戦記』の少し前に同じ角川文庫(のち角川スニーカー文庫)から出ていますし、海外SFではありますが『ダーコーヴァ年代記』(創元推理文庫)も絵に描いたような異世界ファンタジーです。ところがいまでは、両作いずれも絶版となっており、書店で買うことはできません。


 時代はなぜ、『ロードス島戦記』を選んだのか?


 私には、コンピューターRPGとの親和性ゆえと考えています。


『ロードス島戦記』は、テーブルトークRPGのリプレイをノベライズしたもので、ゲームのノベライズではない――なので、レベルとか、ステータスとかが作中に現れることはない――のですが、リプレイが掲載されていたのがホビーパソコン誌『コンプティーク』だったこともあり、コンピューターゲームとの親和性は非常に高かったといえます。


 あからさまにレベルやステータスを作中に持ち込んだ小説といえば同じく角川スニーカー文庫の『フォーチュンクエスト』でしょうか。おもしろかったなあ、そうそう、児童書として再版されたとか。図書館で見つけたのですが、ライトノベルも年を経ると児童書になるのかと、変な感心をしたものです。


 さて、『ロードス島戦記』も『フォーチュンクエスト』もRPG(ロールプレイングゲーム)というバックボーンをもった小説でしたが、これとはべつに、非RPG系の異世界ファンタジーもあります。同時期の小説でいうと『空色勾玉』がそうです。やがて、90年代に入ると異世界ファンタジーはオタクの小説から、一般小説の分野へと侵食をはじめます。小野不由美さんの『十二国記』シリーズです。


『十二国記』は、当時量産されていたRPGベースのファンタジーを視界にとらえながら、あえてそれには背を向けたファンタジーとして作り上げられているように読めました。とにかくその点が斬新で、私のようにRPGファンタジーに辟易していた人たちがこぞって読んだようです。


 中国のような世界を舞台にRPGテイストを排した『十二国記』のヒットは、「こういうのもアリなんだ」と読者の目を開かせたと思います。一般的にオタクのものと考えられていたファンタジー小説の枠を広げた小説といっていいと思います。


 いま私はファンタジー小説を俯瞰するように書いてますが、実際私が手にした小説はファンタジー小説のごく一部です。そして『十二国記』以降、私がファンタジー小説を読むことはほとんどなくなりました。


 これ以上、ファンタジーを読む必要はない。と感じたのかもしれません。いや、自分のことですから誤魔化してもしょうがない……。


 ――これ以上のファンタジーはない。


 そう(自分勝手に)見切ってしまったのです。


 小野不由美さんがホラー小説『屍鬼』で見せた圧倒的な筆力に『十二国記』の評価が高まったこと。ミステリー、時代小説、SFと複数のジャンルを書き分ける国民的作家、宮部みゆきさんのファンタジー『ICO-霧の城-』、『ブレイブ・ストーリー』が、私個人としては消化不良に終わったことなどが影響したと思います。


 ――もうファンタジーはいいか。『ロード・オブ・ザ・リング』も観たし、『ベルセルク』を読めればいいじゃん。


 などと甘いことを考えていた私が出会った小説が――上橋菜穂子さんの『守り人』シリーズでした。

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