25カオス 白の均衡

 もうすぐ12月です。10月にずっと奥の山から始まった紅葉が、ひと月以上かけて、ようやく街まで下りてきました。歩いていると、公園の木々や街路樹が赤く、黄色く、色づいてきているのがわかります。今年の紅葉は例年になく美しいような気がしますね。


 話は変わって、デジカメに「ホワイトバランス」という機能があるのを知ってますか?


 しりませんよね(笑)


 ホワイトバランスを簡単にいうと、景色(被写体)の「白」を「白」として写真に写しとるため、色合いを補正する機能のことです。


 昼間の太陽光、夕方の太陽光、白熱灯、蛍光灯――、それぞれ明かりには「色」が付いていて、白が赤っぽく見える光とか、白が青っぽく見える光とかがあって、補正しないと不自然な写真になってしまう場合があります。これを自然な色合いに近づけようと補正する機能を「ホワイトバランス」といい、多くのデジカメはこれを任意に設定できるようになっています。


 このホワイトバランス、本来は自然な色合いになるよう写り具合を調整するための機能ですが、画像の色合いを変えることができるため、「カラーフィルター」のように使われることがあります。


(やっと本題に近づいてきた)


 ホワイトバランスを「日陰」や「くもり」に設定することで、画面の赤みを強調することができるのです。


 どういうことかというと、紅葉を撮影するとき、ホワイトバランスを「くもり」にしておけば、紅葉した赤や黄色の木々がより鮮やかに撮れる! ということなんです。


 デジカメをもってる人はやってみてください。全然違うから。


 紅葉を見に行くとよくあるのが、「それほどき見事に紅葉してるわけでもないよな。(がっかり)」というやつ。

 赤みが薄かったり、まだまだ緑が多かったり、「残念な紅葉」のパターンはいくつかありますが、このホワイトバランス「くもり」で撮影すると、あーら不思議。

 しょぼくてやや残念な現実を、写真の中では鮮やかな紅葉の風景に変身させることができるのです。




 さて(ここからが本題です)、このホワイトバランスによる紅葉の強調効果。

 単純に「きれいな写真が撮れた!」と無邪気に喜んでいればよかったのですが、何日かするとなんだか騙されたような気がしてきました。


 現実は、そんなに美しい紅葉が広がっていたわけではないのです。デジカメの機能で鮮やかさを強調しているから、きれいに見えるだけ。実際は少し残念な風景が広がっている――これは写真を偽ろうとする行為なのではないか? 本当の風景写真とは言えないのではないか――と。


 ここまで考えて、ふと私は「小説もそうなんじゃないか」と考えました。


 小説は、あたかもそれが現実にあったことのように描かれますが、実際にあったことではありませんし、現実を逐一写しとったものでもありません。もしそういうものがあったとしても、読むのが苦痛で一顧だにされないでしょう。ある意味、現実を改ざんし、読みやすく再提示してあるのが小説なのです。


 そのため、小説は数多ある現実のなかから描くべきことを絞り込み、読み手をしてそこに焦点が結ばれるよう工夫して描かれるべきものなのです。

 

 デジカメが紅葉を鮮やかに写しとるように――。








 でも……。

 ホワイトバランスが紅葉を鮮やかに引き出す、ということは分かりましたが、現実から小説のテーマを浮かび上がらせる、「小説のホワイトバランス」は、まだ見つかっていません。


 だれかそんな機能、知らないですかね?

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