6-5-1

 看板を見て、スマートフォンに表示された地図を見て、看板を見る。メッセージアプリに画面を替えて、もう一度。息を呑む。小さく一つ頷いて。美空は細い階段を上る。

「いらっしゃいませー」

 かららんと、ドアの上部のベルが鳴った。

 軽い声にホッとしながらそう広くはない店内を見回す。探すまでもなく見覚えのある頭が揺れ、見知った顔が美空を認める。

「美空ちゃん、こっち」

 机と机の合間の通路の突き当り、窓を背にして新戸はひらひら手を振っていた。

 美空はほっと息を吐いた。声をかけようとしていたのだろう店員の手が止まる。美空は会釈し店員の前を通り過ぎると新戸の前の席に向かう。

「迷わなかった? ごめんねぇ変なところ指定しちゃって」

 五月の連休の真っ只中に会おうと連絡してきたのは新戸だった。いつもの図書館そばのファミレスではなくずいぶんと離れた駅で、店まできっちり指定してきた。美空の全く知らない場所ではなかったけれど、柳瀬は予定と合わず断念した。

 車道を行き交う喧騒のなかに、重く低く街を人を揺らすかのような汽笛が聞こえる。

「大丈夫です。お店は全然ですけど、船はこの先から出るから」

 埠頭へ向かう道だった。春と秋、島へ行くときにこの前の道を通るのだ。行きも帰りも孝志や省吾、常に誰かと一緒におり、寄り道は初めてだったが。

「ならよかった。いつものところも考えたんだけどちょっと予定がかぶっちゃっていっそ出てきてもらったほうが良いかもって思ってさ。あ、温かい紅茶でいい?」

「え、はい」

 ホットティーと、ブレンドおかわり。新戸は水と手拭きを運んできた店員へと声をかける。美空は四人掛けの一席を占めた大荷物を目にとめながら、新戸の対面へと落ち着いた。

「まずは、写真ありがとね。おかげで見栄えの良い、良い記事になったと思う」

「え、あ、はい!」

「来週から始まる大型特集記事で使わせてもらうことになった。ウェブ掲載もあるから、URLを送るね」

 新戸は新聞記者である。写真を渡すとはそういうことだ。撮った写真が使われる。美空は自然と背筋を伸ばした。

「それとこの人なんだけど」

 新戸は端末で一枚の写真を選び出した。美空が渡した中の一枚。食堂の前のあたりのものだ。フカミがいて外国人の女性がいる。新戸が示すのは、女性の方だ。

「日本人じゃないよね?」

「乗っていた船が沈みそうになって、島に来た人だって聞いてます」

 連れてきたのはヨツバという島の女性だと聞いていた。掟に反することは承知で、しかし、見殺しにするのは忍びないと。島長は条件付きで彼らの上陸を許したのだ。島人として暮らすならと。曽田をはじめとする保守監視員側は、結局、島長の決定に異をとなることはしなかった。当時、どんな議論があったのかまでは美空にはわからない。

「どこの国の人か聞いてる?」

「フィリピン、だったと」

「名前は」

「えぇと……」

 新戸はじっと美空を見ている。端末の写真は拡大されて、浅黒い肌の目や口の大きなはっきりした横顔が大きく映し出されている。

 なんだろう? 思いつつも記憶をたぐる。フカミはなんと呼んでいたか。

「ジョ……ジョアンナ……かな」

「そう」

 新戸は視線を端末に向けた。写真を消し、別の写真を映し出す。解像度の低い写真だった。作業着とも軍服とも言えそうな服装の数人が、美空にすらわかるライフルとか呼ばれるものを傍らにこちらを見ている。

 そのうちの一人は、頭部はよくわからなかったものの、体型から女性と知れた。

「一月にフィリピンでテロが起きた事は知っているかい? 建設中の原子力発電所を狙ったヤツ」

 美空は戸惑いつつも頷いた。紅茶を運んできた店員に会釈して、熱いカップを引き寄せる。

「乗っ取りは失敗したのだけど、周辺を含め結構大きな被害が出た。被害を出したのは鎮圧にあたった軍側だったらしいけどね」

 新戸もコーヒーを引き寄せる。取っ手を掴み湯気を嗅ぐように、カップの中身をゆるく揺らす。揺れる水面へと落ちていた視線は、やがて美空の上に戻ってきた。

「日本じゃすっかりニュースもないし終わったように思われてるけど、現地はまだ緊迫感が残ってる。乗っ取りを計画した組織は壊滅したとも言われているけど、主犯……ボスが捕まっていないんだ」

 新戸は写真の一人を指し示した。女性の横、中央に立つ男性だ。

 美空は頷くようにカップを口元へ運んでいく。まだ、熱い。

「その組織の活動員で、世界的にも手配されている人物が何人かいる」

 指を滑らせ表示させた次の写真はもう少し鮮明なものだった。一人ずつの顔写真だ。指が滑るたび写真は変わる。男性、男性、女性、男性、男性、男性、そして。

「あ……」

 その一枚に映し出された顔に、見覚えがあった。

 きつい目をした女性だった。写真ではスカーフのようなもので頭部を覆ってはいたものの、この目の印象には覚えがある。

 訴えるように新戸を見上げる。新戸は冗談だったとでも言い出しそうに、にっと口元を笑ませていた。

「そんな可能性もあるかもねってね」

 もう一度。引き寄せようとした端末は操作一つで閉じられてしまう。一服とばかりにコーヒーを啜る新戸を見上げる。美空の手元のソーサーとカップが音を立てた。

 これは何処まで関係があるのかないのか、すべては全くの杞憂なのか。

「その、ジョアンナさんとか」

「ん?」

「他の外国人の二人とか、他の島の人も」

 新戸は黙ってコーヒーをすする。

「島の返還に反対してるみたいだって、フカミちゃんが」

 新戸はじっと美空を見ている。続けてと無言で確かに目が言っている。

「ひげのおじいちゃん言うことは横暴で、島長は自分たちを売ろうとしているって。自分たちのことは自分たちで決めなくちゃって」

 あのままの島が良い。返還はして欲しくない。そんなことは美空も思ったりするけれど。美空は心の中で呟く。なにかが違う、気がする。

「興味深いね。島の人たちが日本に『戻って』来るときに彼らの扱いをどうするかは問題だとは思うけど、所詮お役所の問題でもある。それがあるから返還に反対、というのは理屈が通っているようで通っていない。そもそも彼らは救助されて仕方なく島にきた。掟があるから留まった――だったよね? だとすれば、事情を話して国に帰る、という方法を取ることが普通じゃないかな。日本に帰化……戸籍上も日本人になるって方法もある」

 島の人たちが不安に思うのはわからないでもない。けど彼らは国が違えど日本の、文明の生活がどんなもんかを知らないわけじゃない。反対の理由はなんだ。反対してどうなる。反対してどうする――。

 考えをまとめるためだろうか。新戸は独り言のように続ける。

 島。美空は知らず呟いた。

 ――島の人になりに来たみたい。

 いつか、美空自身が言った言葉だ。

「それが留まりたい特別な理由かもしれない」

「島が?」

 わかんないけどね。

 新戸は飲み干したカップを脇に置く。雑談は終わりとばかりに息を吐き、さて、と端末を再びつついた。

「ここまで来てもらって雑談もないし。俺の方で調べられたことをご披露しちゃおう」

 端末にいくつものリンクが表示されている。新戸はそのうちの一つを選ぶ。

 ぼぉっと重く汽笛が響いた。フェリーが入港したのか出港したのか。それとも他の合図か。音がここまで響いてきた。

「なっかなか興味深いデータを見つけたんだよね」

 表示されたのは折れ線グラフだ。横軸は『年』になっており、左端が一三〇年ほども前、右端が昨年になっている。

 左端で下の方にあった折れ線は最初横這いを続け、一〇〇年前のあたりで上向き始める。上向きはしばらく続き八〇年前あたりからしばらく高い水準を保ち、五〇年前あたりで緩やかに下降を始めた。昨年までに大分下がりはしたものの、左端よりずいぶん高い位置で終わっている。

 右肩上がりで横這いからの下降気味、とでも言うのか。

「なんですか、これ」

 縦軸の上の辺りに『論文数』と記載がある。論文の数――なんの?

「論文数っていうのは、研究の結果が発表された数、とでも言うのかな。どれくらい沢山研究されていたか、と考えてもいい」

 美空は一応頷いてみる。わかったような、わからないような。

 新戸は笑みをほんの少し柔らかくして先を続ける。

「その中でもこれはね。放射線の人体への影響を扱った論文の数なんだ」

 美空は再び曖昧に頷く。それがいったい、何なのか。

「美空ちゃんから聞いた『事実』を組み合わせて考えてみたんだけどね。一つ、遺体を持って帰ってくる」

 新戸は人差し指を立てて見せた。

 美空は今度はしっかり頷く。

 続いて新戸は中指を立てる。二つ目。

「健康診断は義務」

 美空は今度もしっかり頷く。

 新戸は今度は薬指を。三つ目。

「島は原発事故の除染廃棄土で出来ている」

 これも、頷く。

 新戸の指は、そこで止まった。代わりに新戸は水のグラスを口へ運んだ。

「放射線の人体への影響というのは、なかなか調べ辛いものなんだ。放射線というのは、短期だと極端な火傷のようなものだったり、血液を壊していろいろな症状を引き出したりする。それを過ぎると中からじわじわと壊していく。病気の原因になり、病気を引き起こす元になったりもする。逆に、病気にならないこともある。病気になるかならないか、どこかに線があるのか無いのか。長い時間をかけてそれを探るのはとても大変なんだ」

 長い時間をかける、という点で大変だろうとは美空でもぼんやり思う。

「ま、難しい話だけどね」

 新戸はほんの少し肩を竦め、けれども再び口を開く。

「大変なことだから、なかなか研究が進まない。健康な人に病気になるかも知れない場所に住んでもらうわけにもいかない。元から住んでいるなんてそんな物好きはそうそういない。そんな場所をほいほい作るわけにもいかない。だから余計、進まない」

 それならまだ、なんとなく美空にもわかった。病気になるかも知れない場所に住めと言われて住みたいわけがない。住まなくてはわからないことなのであれば……それは研究など出来ないだろう。

 はて。美空は新戸を見返してみた。『論文数が増えている』とは『研究されている』だったはずだ。つまり、住んでいる人が、いる。

 満足げに新戸は一つ頷いた。

「そんな研究の論文数が増えている。研究する人が沢山居る。しかも、日本は一〇〇年前にすべての原発を停止している。一一〇年前の事故以来、放射能に関する事故は起きてない。なのに、医学的な研究は続いていた。原発事故の追跡調査というのはあるだろうけど、それだけでこんなに研究されているというのは、ちょっと不自然な気がしてね」

 そこまで言われれば、美空にも想像がついた。

 新戸は氷のすっかり融けた水を飲む。

「論文もざっくりいくつか読んでみたんだ。で。一つの仮説に行き着いたわけだ」

「仮説」

「俺が思っただけで、間違ってるかもしれないからね。だから、仮説」

 美空は頷く。次の言葉をじっと待つ。

「持って帰ってきた遺体は大学あたりで調べられているんじゃないかと思うんだ。献体っていうんだけどね」

『体』。そういう単位を確かに見た。

「長期にわたり高い線量にさらされ続けて、臓器にどんな影響が見られるか。きれいな死体を解剖するのが早いだろう? しかも、生前の状態は健康診断でわかっている」

 一年半程前、孝志の代わりと言って押しかけて出席した会合で使われていた単位だ。遺体の数だとすれば、確かに『体』だ。

 知らず美空は腕を抱いた。鳥肌が立っていた。

 ――戻ってから調べることにしましょう。

 孝志の言葉が不意に浮かんだ。デニスが手術をしたかもしれないとか、そんな文脈の中で出てきた。

 何を? いつ? どうやって?

 ――戻ってから、氷漬けの遺体に手術の跡があるかどうかを、調べることにしましょう。

 孝志は医者だ。普段は大学病院に勤務している。時々大学にも行くらしいことくらいは知っていた。もちろん、教える側、やる側、やらせる側、だ。

 泉に落ちて死んだあの小さな子。美空が知らない島の数多の人々も。――氷漬けのまま切り刻まれた。

「ひどい」

 言葉が漏れた。

「なんでそんなこと、するの」

「さぁてねぇ」

 新戸の声は軽かった。少なくとも美空のように怒ってはいなかった。

 美空が睨めばいつものように口元ばかりで笑んでみせる。

「聞く。調べる。考える」

「聞く」

 新戸はそう、と軽く頷く。わからないなら聞けば良い。

「省吾でもお父さんでも。これは仮説。仮説が間違っていて、真実は全然違うかもしれない」

 新戸は再び指を人差し指を立てて見せる。一。

「でも、合っていたら」

「何でって聞く」

 中指を。二。

「聞いてわからなければ調べる。そして考える」

 薬指を。小指を。三、四。

「聞いて調べて考えて、『なぜ』がすっかり無くなって、それでもやっぱりひどいと思うなら、その時初めて抗議するんだ。『私はひどいと思う』って」

「新戸さんは?」

「ん?」

「どう思うんですか?」

 新戸は四本を指の方を眺めている。開いて閉じてグーパーして、そうだなぁと呟いた。

「俺は一応、大人だからねぇ」

「大人ならわかるんですか」

「まぁ、想像はつくってこと」

 新戸はそこで口を閉じた。美空は口を開きかけ、結局カップに手を伸ばした。

 それはもう、美空が聞いて調べて考えて、結論を出す領域だ。きっと。

「さぁて、もう一ついこうか」

 美空は冷めた紅茶を飲み干した。新戸は腕時計へチラリと目をやり、美空へと向き直った。

「倉庫の中身」

 美空も思わず背筋を伸ばした。――神様。

「こっちでも少し調べてみたんだけどね」

「放射性廃棄物……原発で、燃料の周囲のもので、放射線を帯びているけど、それそのものは放射性っていうわけではない、もの、ですよね」

 理解しきれてはいなかったが、そんな感じで覚えていた。ナスの周囲にナスの色が移るように。フカミにはそう説明した。

 うん、新戸は軽く頷き、続ける。

「規定では、放射性廃棄物の中間保管期間は五〇年とされているんだ。一〇〇年は長い。余裕をもってというのも考えられないわけじゃないが、五〇年ではダメな理由があるかも知れないと思ってね」

「ダメな理由」

「五〇年と一〇〇年。何が違うと思う?」

「五〇年だと、生きている可能性があって、一〇〇年だと、まず間違いなく死んでいる」

 それは以前話題になったこと。倉庫の中身のことではなかったけれど。

「そう。五〇年は『子供のころ』や『あの頃』だけど、一〇〇年は歴史だ」

 美空は思わず明後日を見る。

 ピンとこなかった。五〇年前と言えば、孝志が生まれたあたりになる。美空の全く知らない時代だ。

「美空ちゃんはまだ中学生だしねぇ。さすがにピンとは来ないと思うよ」

 新戸の笑みは、さすがに苦いものに変わっていた。

「一〇〇年前…ちゃんと言えば一一〇年前。原子力発電所の事故が起きた。それから日本は原発廃止に動く。事故を覚えているうちは原発の復活は難しい。が、一〇〇年経ったら。当事者が全て鬼籍に入ったら――死んでしまったらどうか。原発を復活させるとしたら。何が必要だと思う?」

「え、えと、死んでしまったら? 復活?」

 死んでしまうのはわかる。なにせ一〇〇年だ。復活というと? 美空は眉根を寄せて視線をあちらこちらに彷徨わせる。発電に必要なもの――。

 かららん。軽やかなベルの音が店中に響き渡る。いらっしゃいませー。店員の軽い声がBGMのように聞こえた。

「そう。原発を復活させるとしたら」

 新戸の声の調子が変わった。足音と、スーツケースを引きずる音と。

 美空は答えが出ないまま、新戸を盗み見るように顔を上げる。新戸の視線は、美空の後ろに向かっていた。

「……適度に濃縮されたウラン。もしくは、プルトニウム。核燃料。まさか」

「お兄ちゃん!?」

 省吾だった。小さくはないスーツケースを引きながら、スーツを少し縒れさせて、自身もくたびれているように見えた。美空の隣、空いた椅子に手をかけると、乗り出すように新戸へ詰め寄る。

「原発燃料があそこにあると?」

「推測だよ、推測! 推測憶測思いつき! それより小笠原はどうだったの。あ、ブレンド追加と、おかわり。紅茶も!」

 小笠原?

 見上げた省吾は、まっすぐに新戸を睨んでいた。

「そこに至った理由を説明しろ」

「するから座れ。せっかちだなぁ。事故の後、日本の原発は廃炉の方向に進む。原料となるウランはもちろん、適正に管理される必要がある。ウラン・プルトニウムを国際的に動かした気配はない。ならば、国内のどこかに保管されているはずだ。だけど、再処理工場も最終的には閉鎖、解体されている。ならばどこに。しかもこの国は、原発技術自体は捨てていない」

 テロの対象となったフィリピンの原発には日本の技術が使われている。一月のニュースでは、そんなことを言っていたような気がする。

「起こしてはいけない神様。人が扱いきれなかった、神様……そんな、馬鹿な」

「全部推測だって言ってるだろ。落ち着け。座れ。母島だったっけ。出張片道二五時間お疲れさん」

「何でお前がそれを知っていて、美空ちゃんがここに居るんだ」

 省吾は脱力するようにしてようやく椅子に腰を置いた。盛大なため息と共にテーブルへと突っ伏した。店員の運んだ水は新戸が受け取り、新戸の側に避けて置いた。

「それは蛇の道とか蛇とか言うやつで。美空ちゃんは」

「えっと」

 柳瀬の顔が浮かび、ほんの一瞬だけ、なんと言えば良いのか、迷った。

「クラスの子が新戸さんの知り合いで紹介してもらって」

「裕太郎、おまえ、変なこと吹き込んでないだろうな」

「やだなぁ。契約に基づく紳士的な大人の付き合いですよー?」

 顔を上げた省吾は新戸を睨む。新戸はシナを作ってそれを受けた。

「契約?」

 例えば犬だったら。省吾はうなりを上げたりしていそうで。美空は慌てて袖を引いた。

「難しいなって思ったこと、教えてもらったりしたの。その子も一緒に」

「美空ちゃん、脅されてない? 庇わなくて良いんだよ?」

「省吾ちゃんー」

「ほんとに、いろいろ教えてもらってるだけ。何もないよぅ。それより小笠原って」

 コーヒーが来て、ようやく省吾は身を起こした。新戸は愛想笑いを店員に向けている。

 省吾はコーヒーを取り上げ少しばかり笑んでみせる。

 その笑みはなんだか寂しげに見えて。

「候補地」

 ぽつりと漏らした。

「え?」

「島の人たちの引っ越し先の候補地、だろ。良いんじゃないか。気候も近いし、環境も聞いた限りだと近そうだし。ODKで買い上げて立ち入り禁止にすれば、軋轢も少ないだろうし」

 省吾に代わり、口を開いたのは新戸だった。省吾は視線をうつむけたまま、一つ一つ頷いている。

 美空の耳には新戸の声は、入ってそのまま抜けていってしまっていた。

 候補地。移転先。引っ越し先。

 そんな言葉ばかりが頭の中を回っている。


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