閑話

5.5 あやかし使いは嗤う

 入学式が終わり、クラス分けが発表されるというとき。彼女はチカラを発動させて妖怪を1匹呼び出した。

 召喚されたのは白狐。ふかふかの毛並みは日光を具現化したかのように光輝く。しかしそのチカラは強大で、命令によれば国をひとつ滅ぼすのも容易い。今回は、かなり私的な問題で呼び出されたのだが。


香蘭こうらん。ボクと彼女桜田 鈴花を同じクラスにしておいてくれ。その方が動きやすいからね」

「・・・・・・よろしく・・・」

『かしこまりました、主人マスター


 いつの間にかそこにいた主人の弟と主人に獣型妖怪の最敬礼をし、白狐――香蘭は風となって駆け出した。


(主人は、随分とあの少女にご執心のようだ)


 クラス分け発表の紙の前に10秒で辿り着き、チカラを少しだけ使って文字を動かしながら香蘭はそう思う。

 実際、主人がこのように香蘭を使うことはなかった。せいぜい、そこまで強くもない敵から身を隠すぐらいだ。

 ご執心、と思ったが、好きだからというわけではないようだ。どちらかというと――天敵だからか。それは、かなり前に主人に告げられたことがその予想を確信に変えている。


(『選ばれし巫女』、か。しかしあの少女に、そんなチカラがあるようには見えなかったのだが・・・)


 『選ばれし巫女』。世界で唯一、伝説の舞を舞えるの少女。

 そのふたりは、あやかし使いである主人にとっては天敵だ。何せ、舞で反撃されてしまうのだから。

 香蘭は、伝説の舞はふたつあるのだと聞いていた。それは『桜花の舞』と『天地の舞』だと。舞える者を見つけたらすぐさま報告し、香蘭自身も気を付けろ、と。



―――――

――――――――――・・・



『終わりました、主人』

「お疲れ。もう帰るかい?」

『いえ、少しこの辺りを探ってみます』

「・・・そう・・・じゃあ、気を付けて・・・」

『お気遣い、感謝します。・・・主人、最後に今回の褒美を』

「ああ、そうだね」


 挨拶を交わし、最後に茜の髪を持つ主人がはさみを取り出す。それを躊躇いなく髪に向け、端の方を5mmほど切り落とす。

 美しい茜髪に触れると、香蘭はチカラがみなぎってくるのを感じた。十分貯まったと思ったときに離し、くるりと背を向けると、次の瞬間にその姿は消えていた。


 少女と少年は同じエメラルドの瞳を輝かせて嗤う。そして、手の平から溢れるチカラをぎゅっと握った。茜髪の少女は、復讐をするために。もうひとりの少年は、姉に恩を帰すために。


 狙われる少女はまだ、そのことには気付くよしもなかった――・・・

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