5 入学式

 入学式の朝。私は、のんびりと桜並木を歩いていた。遅刻しないように朝早く起きたから、時間はまだまだある。

 ふと、少し先に神社が見え、不思議と気になった。ちょっと寄ってみることにする。その神社はこじんまりとした印象のある小さなところだった。鳥居の上には、『桜花神社』と書かれたものがついている。朝が早いということもあって、人は全然いない。


 …そうだ、お参りしとこう。そう思って、私は賽銭箱前まで行く。お金はもってなかったから、ごめんなさいって謝りながら。二礼、二拍手、一礼。正しい作法で参拝して終わり。

 鐘を鳴らすとき、なんか文字が見えたけどあれはなんだろう?


「まぁ、いっか」


 わざと口に出し、たたっと元の道に戻る。そのあとは、もう寄り道せずに学校まで一直線に走っていった。


―――――

――――――――――…


『私立美篶学園』


 そう立派な文字で書かれていて、少し気遅れする。でも、思いきって一歩学園内に足を踏み入れた。

 私立美篶学園は初等部から高等部まである、いわゆるエリート校。なんでこんなところに入れたのかは謎だ。お母さんは、「通知簿を見せたらいけた」って言ってたけど、そんなものを軽々と見せないで欲しい。大事な個人情報なのに!


 と、急に周りがざわざわとどよめいた。みんな、ある一定の場所に視線が集中している。私もつられて、その方向を見た。

 そこには、凄くキレイなふたりの…少女?少年?がいた。片方は茜色の髪をショートカットにしていて、視線は感じているはずなのに堂々と歩いていた。もう片方は、紺色の髪でボブぐらいの長さで切りそろえている。瞳の色は、どっちもエメラルドみたいな緑。身長も同じぐらいだし、双子かな?


「ね、見て!あの人、加奈宮さんだよ!」

「ホントだ。キレイだなぁ…」

「憧れちゃうよねー」


 周りの会話を聞こえてきて、あの双子が『加奈宮さん』ってことが分かった。さらに耳を研ぎ澄ませて聞いてみると、茜色の髪の方が『るり』紺色の髪の方が『るか』って言うらしい。しかも、家が外国の会社を経営してるとかなんとか。とにかく、凄い人みたい。

 でも、私にはあんまり関係ないよね。あんな凄い人と関わるようなことなんて、そうそうないだろうし。


 でも、その予想はすぐに裏切られることになる。




「よろしくね」


 そう言ってにっこり笑うのは、加奈宮 るりさん。双子の片割れ。そして今は、私の隣の席に座っている。なんでこうなったんだろう…。周りからの視線が痛いよ。


 そう、私はクラス分けで加奈宮さんと同じクラスになってしまったのだ。10クラスあって、しかも1クラス40人ぐらいいるのに、なんでこの確率で隣に…

 私には、これからなにも起きませんように、と祈るしかできなかった。

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