3 再会

 おろおろとしていると、花香が私の方に気付いて、一気に不機嫌そうな表情になった。


「あんた、鈴花だっけ?なんでここにいんの?」

「え、あ、ここ習う予定だから、見学に・・・」

「最悪。帰ってよ」

「花香!やめなさい!」

「・・・はい」


 花香は渋々黙ったけれど、嫌だってことがひしひしと伝わってくる。今も私の方を睨んでいて、すごく怖い。


「――花音、始めるわよ」

「はい」


 そんな花音を気にも留めずに、奏さんは音楽をかけた。この音は…琴、かな?キレイな和風の曲が流れてくる。

 タン、と音を立てて花音が舞い始める。その瞬間、表情が、空気が変わった。さっきまでの不機嫌オーラはもうない。目を奪われてしまうほど美しい動きで、滑らかに、時には優し気な顔になりながら舞う。

 栗色の髪がさらりと流れ、瞳の色もあいまって花音が天女のように見えた。


 舞が終わっても、私もお母さんも開いた口が塞がらないまま、余韻に浸っていた。パチ、パチ、と控えめな拍手の音が響き、ハッと我に返って思いきり拍手する。花音は照れたようにそっぽを向いていた。


「今のは神舞かみまいのひとつ、『天降り』よ。古事記や日本書紀、風土記の中の話が元になっているの」

「ほえ~、すごいですね…。――あの、練習すれば、私にも舞えるようになりますか?」

「ええ」


 そうなんだ!舞、習ってもいいかもなぁ…なんて、目を輝かせていたら。


「バッカじゃないの?あんたに舞えるわけないじゃん。あたしだって、やっと舞えるようになったんだから」

「っ…」


 花音が水を差すようなことを言ってきて、うっ…と言葉に詰まる。でも…花音は五年習い続けてって言ってたよね?それに気付き、しょんぼり気分が驚きへと変わる。思わず、尊敬の目で花音を見てしまった。

 私は、何をやっても長続きすることがない。自分でやりたいと思ったことでも、短かったら一週間、長くても一年したらやめてしまう。だから、五年も習い続けている花音は、すごい。


「何よ」

「へ?あ、五年も続けられるってすごいなー、って思って…」

「あっそ」

「うぐっ」


 この話題から仲良くなれるかと思ったけど…ダメかぁ。花音は、いつも私に対してピリピリしていて、不機嫌。ずっとその態度で悲しいから、仲良くなりたいなぁって思ったんだけど…

 またしょんぼり気分に逆戻りして、はぁ、とため息をつく。――と、ふいに花音が「あ…には、これ…いから」と小さくささやいた。「?」と花音の方を見たけど、「なんでもない」とそっけなく言われてしまって、会話が途切れる。


 それから何分もしーんとしていたからか、はたまた気を使ってくれたのかは分からないけど、見学会はそこでお開きになった。


 入学式のあとまた来ることにし、教室を出る。家に帰っている間も、花音がささやいた一言が気になってしょうがなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る