2 花の舞
引っ越してきてから、二週間近くが経った。最初は怖かった新居にも慣れ、今日は習う予定の習い事の見学に行く。けれど、今日までいくら聞いてもお母さんが何を習うのかを教えてくれなかったので、少し不安が残っている。
お母さん、結構お調子者なところがあるからなぁ…やっぱりもう一度聞いてみようっと。
「ねぇ、お母さん」
「ん?リン、どうしたの?」
お母さんは私のことをリンと呼ぶ。かわいいから結構気に入ってるんだ。
「今日見学に行く習い事って、どんなのなの?」
「ふふっ、日本の伝統芸能。それだけヒントあげる!」
「えぇー!分かんないよ、そんなの」
「あ、教室に着いたよ」
「早っ!」
お母さんと言い合いながら歩くこと、わずか五分。あっという間にその教室へと辿り着いた。よく分からないまま、ドアを開けた。
「「失礼しまーす!」」
教室の中に入ると、
――ダンッ!!
急に大きな音が。びっくりして音がした方を見ると、若い女の人が舞を舞っていた。鈴を手に持っていて、女の人が振ると、リーン、と澄んだ音が響き渡る。
それから二分ほどして、やっと舞が終わった。女の人がクルッと振り向き、私たちに満面の笑みを向ける。
「いらっしゃい!私はこの舞の教室で先生をしている、
「はい。奏先生、これからよろしくお願いします。――ほら、リンも」
「よ、よろしくお願いします!」
お母さんに促され、慌てて女の人――奏さんにぺこりと頭を下げた。奏さんは長い黒髪を高いところでポニーテールにして結んだ、キリッとした雰囲気の美人。でも、にこにこと笑顔を向けてくれているから、怖くない。私には優しいお姉さんみたいだなぁ、と思った。
そこでふと、私はさらっと聞き流していた奏さんの自己紹介を思い出し、首をひねった。奏さんは、この舞の教室で先生をしているって…言って…?舞…まい…ま、い?
「え、ふええぇぇぇえ!?」
「どうしたの、リン。まさかこの教室が舞の教室だってこと、今気付いた?」
「そのまさか!」
「え?そうだったの?ごめんなさい、知ってると思ってたわ。じゃあ、改めて説明するわね」
奏さんが驚いたようにそう言って、鈴を置いた。隅の方に置いてあるパイプ椅子に座るようにすすめられ、私たちは恐る恐る腰かけた。奏さんが説明を始める。
「舞っていうのは、日本舞踊のひとつよ。まぁ、ダンスに似たようなものって思ってもらえばいいわ。文化財に指定されているものもあるの。そういうのは、平安時代から伝承されていたりする。ここでは、簡単な技術を学んだ後、本格的な舞を練習するわ。あなたは、舞の経験はある?」
「ないです」
「じゃあまず、同い年の子がこの教室にいるから、その子の舞を見てみてもらうわね。一度見て、どんなものか掴んだ方がいいから…」
「は、はいっ!」
「――花香!こっちに来て、この子にあなたの舞を見せてあげて」
花香?えっ、と思ったときには時すでに遅し。花香がもうここに歩いてくるところだった。
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