第一章 目覚める力

1 始まりの桜

 ブロロロロロロ・・・


「そろそろ着くわよー」


 お母さんの声で、私――桜田さくらだ 鈴花りんかは我に返った。今は、引っ越しの真っ最中。新しい家に向かっているところなんだ。


 私は今、小学校を卒業したばかり。あと二週間もすれば、この桜花おうか町にある、美篶みすず学園中等部に入学することになるんだけど・・・


「はぁー・・・」


 思わずため息がこぼれる。


 何故かというと、前に住んでいた町、光丘町の友達を思い出していたから。あの頃は、引っ越すなんて思っていなくて、みんなと同じ公立の中学校に通うんだと思ってた。それが急に引っ越しなんてことになって――


 そんなことを考えていたら、


「着いたよ!」


 と再びお母さんの声が。


 車から降りると、そこには立派な古風の御屋敷があった。


「・・・ええええええ!」


 私は思わず叫んでしまった。だって、確かにお母さんには引っ越し先が『御屋敷』だって聞いてたけど、洋風なのを想像してたんだもん!家の門を抜ける。すると、そこにはまたまたびっくりな光景があった。


 庭に、桜が咲いている。いや、それはいい。よくないけど、今は置いておく。気になるのは、桜の本数!枝垂れ桜にソメイヨシノ、なんだか花びらがひらひらしているもの。計5本もある。


「え、えええええええー!!」


 私はまた叫んでしまった。なんだか今日、叫んでばっかりな気がするなぁ。息を整える私を、お母さんがきょとんとした顔で見ていた。





 御屋敷の中に入っても、私は叫びっぱなしだった。そんな私を、お母さんはにこにこと眺めつつ、時々「いいところねぇ」なんて呟いていた。でも、私は到底いいところだとは思えない。だって、家の中にからくり人形やら返し扉?やらがあるんだよ?ドキドキして、落ち着けない。


 でも、中には綺麗なものもあった。私が特に心惹かれたのは、桜が描かれた掛け軸。絵の中の桜の下に巫女装束の女の子が鈴を持って立っていて、散らされた桜の花びらもあいまってとても美しく見えた。


 三十分ほどかけて、家の中の探索を終える。その後は近所の家の人達に挨拶しにいくことにし、門の所まで戻った。


「ねぇ、引っ越してきたのってあんた?」


――そしたらいきなり、見知らぬ女の子に声をかけられた。





―――――――――――――――――

――――――――――――――――――――


 その女の子は、栗色のボブヘアーに紺色の瞳の、活発そうな子だった。私たちの方をにらむように見ていて怖い。


「人がちゃんと聞いてんのに答えないってどういう神経してんの?」

「わっ、ご、ごめんなさい!」

「謝んのいいから。とにかく質問に答えてよ。引っ越してきたのってあんたで合ってる?」

「は、はい」

「ふーん。あたしは花香はのん。別に仲良くなる気はないけど、一応同い年だから挨拶しに来た。あんたの名前は?」

「えっと、鈴花、です」

「鈴花ね。まぁよろしく。あたしは花香って呼び捨てでいいよ。じゃ、バイバイ」

「は、花香!またね!」

「…ふん」


 花香と名乗ったその子は、軽く挨拶をすると走り去ってしまった。その顔には嫌そうな表情が浮かんでいて、私の胸がズキッと痛んだ。挨拶をしているときも、その痛みは尾を引いていて、なかなか消えてくれなかった。

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