第463話 お仕事.その20 ― 蛇蜂の大群 ―




 最強な強さを持つタッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人ではあるが、かといってこの世に敵なしというわけではない。


 それがこの度、証明された。




「はぁ、はぁっ、はぁっ、まだ追っかけてきてるっ」

「ハヌラトムさん、口閉じててねっ」

 アンシージャムンとエルアトゥフがぶっとい丸太を、それぞれ10本運びながら砂漠を疾走する。


 両脇に2本ずつ、両肩にそれぞれ3本ずつ……見た目にはかなり運び辛そうな状態に見えるが、まるで体勢を崩さないままに猛スピードで走り続けた。

 そして、エルアトゥフの運ぶ丸太の先端にしがみつく形でハヌラトムが後方の様子を伺う。


「いかん、このままではアレも引き連れていってしまう。ザーイ殿たちも駆逐しきれんようだ!」

 ハヌラトムから後方、およそ20mほどのところに10cm大の空飛ぶ魔物が1000匹ほどの群れを成して追いかけてきている。

 その後方、さらに50mほど離れたところで、ザーイムンとルッタハーズィがものすごい砂塵を巻き上げながら立ち回りつつ、同じ10cm大の空飛ぶ魔物の大群相手に戦いながら、疾走していた。




―――スァーヴァナハリ蛇蜂


 普通の蜂と違い、お尻の部分が蛇の尾のように長くなっているの特徴的なヨゥイ。

 1個体としてはおよそ10cmの巨大蜂だが、尻尾も含めるとその全長は50cmほどにもなる。


 その長い尾は、飛行時には風になびくように後ろに波打つ。

 低空飛行時には尻尾を下に湾曲させて砂漠の砂の表面を擦り、わざと減速を行って熱対流や風力の影響を調節し、飛行の安定を担うなど機能的に用いられる。

 

 一方で攻撃時にはサソリの尾のように先端を前に向け、毒針で攻撃してくる。


 普通の蜂のように攻撃時に敵にとまる必要がなく、飛行しながらすれ違いざまに針先を擦ることで、突き刺すというよりは切るような攻撃を行ってくるのが特徴。


 尾全体が太いモノがオスで、尾の根本だけが丸く太っているモノがメスであり、メスの方が尻尾が短い。


 瞬間的に出せる最大速度が時速500kmにも至る上、大群で敵を攻撃する上に1匹が10cm大と、捉えるのがかなり厄介。





「くっ、確実に攻撃は当ててはいるが……なんて数だ。ルッタ、大丈夫か?」

 まるで風のように立ち回りながら移動しつつ、しつこく攻撃してつきまとってくるスァーヴァナハリの群れを相手に、ザーイムンは1匹1匹的確に殴り落としていた。


「大丈夫、……でも、面倒だ。減らない……」

 ルッタハーズィもその大きな体躯に似合わず、ハイスピードに立ち回り、小回りをきかせながら全方位に攻撃を放ち続ける。

 ほんの数秒で二人とも100匹は打ち落としているはずだが、とにかく数が異常に多く、しかも仲間がいくらやられようがまったく怯まずに突撃してくるものだから、この二人をしても身体中、擦り傷だらけにされていた。


 スァーヴァナハリは万匹レベルで1つの群れを成す。

 1匹だけならば、並みの傭兵でも対処可能な程度のヨゥイと言えるが、常にこの異様なほどの数でもって行動するため “ 数は力 ” を体現したような強さがある。


 しかも、相手が散開したとしても、数が違う。スァーヴァナハリも散った敵にあわせて散開し、決して逃がそうとはしないなど、一度戦闘を始めたなら非常に執念深く追い続ける。


 そして女王バチが存在しないにも関わらず、群れ全体が1個の意志持つヨゥイであるかのように完璧な統率と連携が出来るなど、群れてさえいればその脅威度はアズドゥッハ以上とも見られているほど。



 いかに屈強なタッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人の兄弟姉妹たちでも、相手にするには難儀この上なかった。





「みなさーーーん! そのまま真っすぐこちらへ走ってきてくださいましーーー!」

 ムシュラフュンに担がれたルイファーンが大声を張り上げる。距離は一番近いアンシージャムとエルアトゥフ、そしてハヌラトムらかから300mほど。


「! りょーかーい!」

「ハヌラトムさん、飛ばすから振り落とされないようにしっかり捕まっていてください!」

「お、おうっ!!」

 声を聞き、ルイファーンとムシュラフュンの姿を見て、疑うことなくその方向に疾走する2人。


 その後方にはスァーヴァナハリの分隊も迫ってきている。


「……今ですわっ! お二人とも、思いっきり左右に跳んでくださいませ!!」

「! こうっ!?」

「えいっ! ……それで、ハヌラトムさんも、キャッチッ!!」

 ルイファーンの合図と共に、丸太が散らばっても構わないのでアンシージャムンはは右に跳んで転がる。

 エルアトゥフは左に跳び、空中に投げ出されたハヌラトムもちゃんと受け止めて砂の上に転がった。


 その直後、彼女達が疾走していた軸線上に―――


ブオォオオオオオッ!!!


『!!!?』


 炎のような、しかしそれにしては薄いような、猛烈な気流のようなものが真っすぐに伸び、追ってきていたスァーヴァナハリの群れを飲み込む。


 燃えるというよりは、そのヨゥイたる邪悪性なる部分が悲鳴をあげるようにして、もろとも消し飛んでいった。




「……ふぅ、上手くいきました。大丈夫でしょうか、みなさん?」

 ルイファーン達の後方、少し離れたところで半分砂漠に埋まるような態勢から腰をあげ、砂を払うシャルーア。


 その手には何やら銃口部分だけが大きく太くなっている、しかし銃身の短い銃器が握られていた。



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