第462話 怪人は大胆に建材を調達する




 ザーイムン達が運んできたモノ、それは何と岩山・・だった。


「凄いわねー……重いとかそういう次元を超えてるでしょ、コレ」

 ルイファーンが驚くよりも呆れたいとばかりにその巨大な岩の塊を見上げた。




 パッと見の高さはおよそ50m強、四方の幅もおそらく50m程度で、山として見た場合は小さい方だが、2m大の生物がコレを1人で・・・引っ張り運んできたという事実を考えると、呆気に取られる以外の反応は出てこなかった。


「まずまずの重さだった、問題ない。ロープが切れないか心配だったが、何とかもった」

 運んできた当のムシュラフュンが安堵しながら、岩山にかかるか細いロープを外してゆく。虚勢や強がりではなく、本当にこの程度の重さは問題にならないといった様子でロープを自分の腕に手繰り寄せながら、軽やかに岩山のまわりと飛び回っていた。


「は、はは……なんかもう、ワケ分からないな」

「す……げぇ……」

「神様の子弟って陛下が認めたっていうのも分かるな」


 新兵たちはただただ感嘆するのみ。

 何気なく岩山の後方を見ればハッキリと引きずった巨大な跡が乗っている。普段なら足跡などものの数分で消し去ってしまう砂漠の風も、コレは消せないと嘆いているかのように、嘆くような音を立てて吹いていた。



「ムシュラ、ザーイ達とハヌラトムさんはどうしましたか?」

 シャルーアがそう声をかけた時は、岩山の頂点付近にいたはずのムシュラフュン。

 だが1秒後には風よりも早く彼女の目の前に着地していた。


「途中、アンシーが複数の魔物を見つけて、喰える奴だから狩ると言い出した。遅れてかーさんを心配させるのいけない、引っ張るモノ一番重くて移動に時間かかりそうな俺が先にきた。皆もそろそろ来ると思う」

 口調はややぶっきらぼうだが、シャルーアと話をする時のムシュラフュンは、本当に好きな母親を前にした子供のような可愛さがある。

 シャルーアに頭を撫でられるのを期待して、彼女の前に来た時点でしゃがみ姿勢なのも微笑ましい。


「そうですか、よく判断しましたねムシュラ」

 シャルーアが優しく頭を撫でると、途端に表情が照れっ照れになるムシュラ。

 普段は寡黙でマメな男然とした顔も、母と慕う彼女の前では形無しだ。


「ところでムシュラさん、この岩山は何なんですの? こちらに運び込んだということは、何かに使われますのよね?」

 ルイファーンが問いかけると、ムシュラフュンは頭だけ上下させて肯定の意を返した。


「この近くは材料が乏しい。ここから砂漠を南東へずっと行ったところに岩山が複数ある……人間の町は石造りたくさんだった。コレはそれを参考に建物を造る材料にする」

 ムシュラフュンやルッタハーズィは特にモノ造り方面に興味が深い。

 砂漠を離れ、エル・ゲジャレーヴァを訪れた時ですら、戦闘でボロボロになっている外壁にもその造形に目を輝かせていたほどだ。


 王都に至っては、田舎者よろしく高い建物を見回し、見上げ、夜には熱心にあれはどう構築すれば実現できるのかを話し合っていたりもした。

 今回、正式にこのオアシス周辺が自分達タッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人の地として認められ、村を建設するとなればそれはもう嬉しい話だ。


「簡単、いかない分かってる……だから大き目に切り出して持ってきた。とりあえず試行錯誤する分はあるはず」

「この大きさでしたらそれはもう十分に、ですわね」

 改めて見上げる岩山。これ全てをブロック状にしたとしたなら、ちょっとした砦ぐらいは建てられそうなレベルの石材になるだろう。家屋ならそれこそ村1つ分は余裕で建設できる。



 ……ボボボボボ!


「! シャルーア様、ルイファーン様! 何か来ます!」

 兵士の一人が声を上げる。

 そちらの方を見ると、地平線の彼方に再び、砂煙が見えていた。

 ムシュラフュンの時とは砂塵の舞い方が異なり、低い位置で横に広く流れている。


「なんですの? もしかしてヨーイ、かしら??」

 シャルーア達にならって、魔物のことをヨゥイと呼称しようと意識的にワードを用いるルイファーン。

 まだ遠いソレが何か確かめようと目を細めた。



「……この気配……兵士の皆さん、念のため武器を構えてください。あの子達、何かを引き連れて来たようです」

 言いながらシャルーアも、自分のリュックからゴソゴソと刀を取り出し、鞘から抜いて構える。


 日課の練習のおかげもあって、ようやくほとんど震えることなく持てるようになった刀。

 とはいえ、ただ構えられるようになっただけだ。天舞てんぶを用いなければその戦闘力はいまだ素人以下―――軽く呼吸を吐いて、胸の下あたりからおへその周りまで緊張させる。


「ムシュラはルイファーン様を護ってください」

「大丈夫、俺はかーさんも守る」

「私は平気です。マンハタもいますから」

 そう言った直後に、オアシスの中で家の屋根の砂を払っていたマンハタが駆けつけて来た。


「シャルーア様、大丈夫ですか?」

 しかしかけた言葉とは裏腹に、シャルーアが刀を抜いて構えている姿を見て、マンハタもすぐにシミターを抜き、ムシュラフュンと共に女性二人を防衛できる配置について構えた。



「はい、ですが何かが来ます。警戒は怠らないようにお願いしますね」



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