第464話 お嬢様は谷間にぶっとい切り札を挟む




 スァーヴァナハリ蛇蜂を駆逐し、合流した一同がオアシスで落ち着いた後、シャルーアは先ほどの攻撃の説明をしていた。



「この銃は、ムーさんの御下がりです。お話によりますと、“ 変わり種な銃だけど

シャルーア様とは相性いいはず ” との事でして」

 エル・ゲジャレーヴァから王都へと帰ってくる際、ムーがシャルーアに譲ったのは、彼女の持つ銃器の中でも特に変わった品だった。


 構造が非常に単純で、分解しても子供でも理解できるほど組み立て直しも用意。全体が頑丈に作られており、雑に扱ったとしてもそうそう傷もつかない。

 その構造の単純さゆえに、砂漠の細やかな砂が多少入り込んだとて事故が起こらないなどなど……初心者には非常に適した、大きめの拳銃タイプの一品だ。


 しかし、問題もある。




「本来ならば射程が短い銃のようですね」

 興味深いとシャルーアの銃を眺めていたハヌラトムが、的確にその特性を見抜く。


「はい。本当でしたら、目くらましを目的とした特殊な弾を、短い距離で発射するモノだそうです」

 拳銃である事を考えても、銃身がとても短い。それでいて異様に太く大口径になっている。まるで拳銃のグリップに別の砲筒を輪切りにして取り付けたかのような、見た目にもかなりヘンな銃だった。


「いただいた後、王都にて弾の方がない事に気付きまして……騒動が収まってから、王都のお店を訪ねてまわり、ようやくこの銃でも使える弾を購入することができました」

 シャルーアはそう言って、自分の胸の谷間に手を入れるとその弾薬を取り出して見せた。


「? 大きな球体ですわね。これが弾なんですの??」

 ルイファーンも銃自体、間近で見るのははじめてだ。

 以前、エル・ゲジャレーヴァでムーとナーが使用している所は見たが、その時使っていた弾はもっと小さく、形状も異なっていた気がする。


 だがシャルーアの手の平の上にのっているモノは、ピンポン玉くらいの大きさの球体だった。


「はい。お店の方のご説明では、“ 目の前の至近距離で撃てば、火傷させられる程度の火がブワッと大きく広く前に飛ぶから、怯ませるくらいの事はできる ” とのことです」

 いわゆる拡散放射タイプの射撃ができるということだ。射程はせいぜい5m程度で、距離をあけて攻撃できる銃としての意義を問いたくなるような用途だが、護身用の補助武器として考えればシャルーアのような初心者にはこれでも十分なのだろう。


 しかしその説明に、ルイファーンは首をかしげた。


「あら、ですけど先ほどは、随分と遠くまで炎が飛んだように見えましたけれど……」

「アムちゃん様に教わったことを少し、試してみたんです。自分の力を武器にのせ、上手く融和させて特性をもたせる……武器を通じる用い方をすることで、今のわたくしでも戦闘に利用できるだろうと、おっしゃられておりましたので」

 つまり、本来なら瞬間的かつ放射的に火が放たれるだけの至近射撃に、シャルーアのエネルギーをのせて撃ったことで、一番太いところで幅20m級のレーザー照射のような攻撃になった、ということだ。


 しかも照射されたのは多少の炎に混じったシャルーアのエネルギーなので、仮に誤射でザーイムン達に当たったとしても炎の分の火傷程度のダメージしか受けず、一方でヨォイが有する邪悪性には効果的に働きかけ、滅することができる。



「さすがママ、すごい」

「かかさま、最高すぎです」

はははすごい、俺、うれしい」

「やはりかーさんは、かーさんだ……うんむ」

「ママー! アタシもママーみたいに銃撃ってみたい!」

 タッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人の5人はキャッキャと喜び、シャルーアの周囲に群がる。


「俺、シャルーア様の下僕になって正解だった……シビレるっ」

 マンハタが誇らしげ、かつ軽く感涙していた。

 どうやら彼も、こういう全てを薙ぎ払うぶっといレーダーとか男のロマン的なモノには嗜好をくすぐられるモノがあるようだった。



「弾があまりありませんから頻繁には撃てませんが、イザという時に用いれるようにしておこうと思います」

 そう言って弾ともども銃本体も胸の谷間の中に入れるシャルーア。プルンと横にひと揺れした乳房は、決して小さくはないその銃を収めたというのに、まるで何も挟んでいないかのようだった。


「(……どうなっているんだ、シャルーア殿の胸は??)」

 そう言えばとハヌラトムは思い出す。

 ルイファーンの私兵団の長として昔、初めて彼女の母親であるヴァリアスフローラに会った時、丸めてもそれなりに大きな契約書を胸の谷間から取り出してきた事があったと。



「(あの時も表には出さなかったが正直、かなり驚いたな。……実は女性の胸の谷間はかなりモノが入るのだろうか???)」

 ここまでくると男のスケベ心よりも知的好奇心が勝る。


 鼻の下を伸ばすではなく、難しい表情でシャルーアの両乳房を注視するハヌラトムに、当のシャルーアは軽く口元だけ微笑ませながら、どうかしましたか? と首をかしげて見せた。



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