第454話 シャルーアが異性に求むるモノ
ハルマヌークは、ファルメジア王の子を身籠ったことにより、側妃という身分から準妃という身分に変わった。実際に無事、陛下の子を出産すればさらに今代王の最初の
とはいえ基本は今までと同じで、後宮で日々を暮らす事に変わりはなかった。
「……はい、今日も問題はないようです。私の “ 力 ” も上手くお腹まわりを流れておりますし、血のめぐりも問題なさそうです」
シャルーアは特別に意識し、集中することで、生き物の血流などを感じられるようになっていた。それでもかなり時間をかけて集中しなければ分からず、ハッキリと感じられるようになったのもまだ数日前からだ。
「そっかー、よかったー……ってか、本当にすごいよねシャルーアちゃん。ふふっ、何だか不思議な感じ―――私がさ、国王様の子供を身籠って、神様に診てもらえるとか、娼館にいた頃はこんな事になるなんて、思ってなかったよ」
人によっては、人生とは本当に数奇なものだ。
無論、良いことばかりではなく悪いことにみまわれる事も少なくないだろう。
明日の結果は、今日の誰にも分からないのが人生だ。
「厳密に申しますと、神様ではありませんよ?」
「似たようなものでしょ、神様の子孫でー、その血が濃くってー、少しでも特殊な力が使えるってさ」
そう言ってハルマヌークはパチリとウインクする。
本人には自覚がないのかもしれないが、やはり妊娠して時間が経過するたび、その表情や仕草には
「そーいえばさ、エル・ゲジャレーヴァのお友達も、赤ちゃんを産んだばかりなんでしょ?」
「はい、ムーさんですね。グラヴァース様との間に第一子が先日、生まれたばかりです」
先日とはいっても、シャルーア達がこの王都へと向かう少し前の事なので、もう2、3カ月は経過している。
「じゃーぁ、このコとは同世代だねー。お友達になれるかなー?」
そう自分のお腹に語りかけるハルマヌーク。
まだ膨らみらしい膨らみすらない状態なので、厳密にいえばムーの子とは約1年差になるだろう。
「きっとなれるかと思います」
「おー、なれるってさ。フフフ、神様のお墨付きだねー」
「いえ、ですから私は神様ではありませんから」
そんなやり取りを他の側妃達は微笑ましく見守る。
一難去った後の、安心と幸福の穏やかなひと時が、後宮に訪れていた。
・
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「……」
夕日が沈みかける時刻。
シャルーアは後宮ではなく、珍しく王宮の見晴らしのいい高層階の廊下のバルコニーに立ち、茜色の沈みゆく太陽を眺めていた。
「……」
無言、そしていつもと変わらない表情―――やや憂い顔を浮かべているようにも見える。
彼女は想う。羨ましい、と。
「(ムーさん、ハルマヌークさん、ヴァリアスフローラ様も……)」
周囲の女性が次々と、子を授かっている。それが羨ましいと素直に感じる。
アムトゥラミュクムの学びを経たことで、自身が決して子を身籠れない身体ではない事は理解できている。
だが、頭では分かっていても感情ではやはり、ソレを欲する気持ちは止められない。
なぜなら、シャルーア自身が生まれて初めて、自分から愛した相手からの愛を失った理由だと、深く心に刻み込まれてしまっているから。
それ故に、子を成すということは、シャルーアにとってもっとも焦がれる事である。
そして何よりも、愛した人とは成さなかった―――それはつまり、愛した人は子を成す相手ではなかったという事を証明している。
それは、シャルーアの愛した者は、自身にとって愛するに値しない相手だったとも言えた。
「(……何故、私は
何となく、あの人がどういう人かは、それなりに世の中を見て来たことで今は察してはいる。
それでも愛し愛されたあの1年間の気持ちは本物だったと、今でも信じたいのだ。
もし、もしも自分が特異な生れでなく、当たり前にあの人の子を授かれていたならどうなっていたんだろう?
つい、そんな事を考えてしまう。
すると不思議なことに、世の中にいる様々な男性を見ては、考えてしまうのだ。
―― もしあそこを歩いている人との間に子供ができたら、あの人は喜ぶのでしょうか?
―― もし今、廊下を挨拶しながら通り過ぎて行った方を呼び留め、愛し合ったとしたなら、喜んでいただけるのでしょうか?
シャルーアは基本、異性に対して献身的だ。しかし、だからといって何も考えていないわけではない。思考を放棄し、ただ尽くすだけの女性ではない。
それが、彼女のその時々の意思に沿っていた、ただそれだけの事に過ぎない―――これまでは。
「(アムトゥラミュクム様……私にも、お母様のように子を成すべきお相手が、きっといつか、見つかるのでしょうか?)」
問いかけるように考えながら、自分の下腹部を撫でる。
母は一体、父に何を感じて結婚したのだろう……
自分もそんな相手に合ったなら、何かわかるのだろうか……
今まで肌を重ねた男性達、最初にその顔を見た時を思い返す。
しかし、誰との間にもそんな特別な感覚や感情を抱いたことはなかったように思う。
「(ヤーロッソさま、リュッグさま、ミルスさま、ラダトンさん、クァッブさん、トボラージャさん、ラッファージャさん、ジャッカルさん、ザーイ達のお父さん、グラヴァース様、アレボリーさん、ジャーラバさんとヤンゼビックさんにバッダール君、アワバさん、ダレコヴィッテさん達に、ハルガンさん、アーリゾさん、デッボアさん、イリージンさん、陛下、オブイオルさん、ドゥマンホス将軍、ラフマスさん、マンハタさん、カッジーラさん……)」
脳裏を流れていく男達は、名前を知ってる者から知らない者までさまざま。何なら肌を合わせたことのない者まで思い返されてくる。
まるで運命の相手を探そうとするかのように、何度も何度も男達との記憶を思い返すシャルーア。
やがて夕日が沈み、夜風が彼女の髪をなびかせ、一つのクシャミをもってようやく彼女は思慮を止め、宮内へと戻っていった。
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