第452話 暗躍する敵の影を追いかけて
リュッグ達が王都に滞在し続けるのには理由がある。
一つはシャルーアの事情だ。
「……、……ここですね、ザーイ? そしてアンシーはこの木箱の中です」
「! すごい、完璧に隠れたつもりだったんですが……」
「さっすがママー、隠れきれないねー」
力の練習をしたがったシャルーアは、ザーイムン達に手伝ってもらいながらあれこれと試していた。
かくれんぼで自分のエネルギーを持つものを感じとるだけを頼りに探し、以心伝心でムシュラフュンが頭に思い浮かべた料理を即座に当ててみたり、
いまだ知識的には5割ほどの理解に留まり、そのうち実践してできる事は2割を切る。
シャルーア自身、非力な温室育ちの少女ということを差し引いても、かなり出遅れている血に濃き神の末裔と言えるレベルにしかない。
異界異邦の
(※「第318話 神が語りし異邦の鬼」「第319話 異界より到来せし異邦の存在たち」など参照)
そしてもう一つの事情が、ハルマヌークの、ファルメジア王の子を妊娠したことが、ついに公になった事に関係する。
昨今の情勢に加え、カッジーラ一味が暴れ回ったことで国民に不安が生じていた中、もたらされた王の子の懐妊は、人々にこの国の将来を感じさせる朗報だった。
なので、絶対にハルマヌークら母子に万が一があってはならない。
「本日の練習はこのくらいにしておきましょう。そろそろハルマヌークさんのお腹を診にいくお時間ですから」
シャルーアは、まだ
シャルーア自身にとっても力を扱う練習になる上に、並みの兵士では決して歯が立たないであろう鬼達やその眷属に対抗する上では現状、シャルーアの助力は必須とであるとも言えた。
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「やはり、北西の魔物のスタンピードの件も、背後で鬼とやらの勢力が関係していると見るべきか?」
ファルメジア王が、この国の全体が分かる大地図を前に、難しい顔で立つ。その図面上には、何か所か×印がつけられていた。
「おそらくは。リュッグ様やシャルーア様からこれまでのお話を聞いた限りでは、発生した各地における問題のいくつかには、人間や野の魔物では説明のつかないポイントが散見されます。その背後にて悪意ある者が関与していた可能性は高いと言えるでしょう」
ファルメジア王の、もはや側近的な大臣のアルハンバルは、情報をまとめあげ、要約し、そして王の眺める大地図の前に立つと、差し棒を取り出し、片手に資料の束を持って詳しく解説しはじめた。
「まず、シャルーア様のご両親の事故死の件です。当初はただの事故であると思われていた本件ですが、後にリュッグ様がスルナ・フィ・アイアを訪れた際、現地の役人において不審な点が垣間見られた事。また年老いたとはいえ、アッシアド将軍が事故死に見せかけられ、夫婦ともに亡くなられるような迂闊を成す方とは思えないことなど、様々な観点から何者かの直接、または間接的な介入の可能性が疑われます」
(※「第80話 妄語を語らば妄語で流す」など参照)
シャルーアの実父、アッシアド将軍はファルメジア王も教育係として王子だった頃に指導を受けた恩師だ。
それだけにこの件は、ファルメジア王自身も気にかかっていた。
「じゃが、現状では多くの解明は見込めぬ。北遠方の町ゆえ、調査にせよ気長に取り組むしかあるまい……口惜しいことよな」
「ご心痛、お察しいたします陛下。続きまして、リュッグ様がワッディ・クィルス付近にて遭遇されたという、謎の魔物です。こちらもその異様さ、および活動の不明瞭さや行動の一貫性に疑問が残るため、何者かが操っていたのではないかという疑義があります」
(※「第38話 簡単なお仕事に不吉の旗を添えて」など参照)
しかし、この件に関しては少し猜疑に過ぎると、ファルメジア王は眉をひそめた。
「謎の魔物が出現したことに関しては、単に未知のモノであるだけという可能性も捨てきれぬ……この件は、何者かの影を疑うには、やや材料にかけるのう」
「はい、どちらかといえば他の案件に比べ、いささか弱いでしょう。ですが、魔物を操るという可能性を秘めた怪しい件がもう一つございます」
そういってアルハンバルが指し示したのは、ムカウーファの町だった。
「魔物ラハス、か……アズドゥッハといい、凶悪危険なるモノが闊歩させてしまおうとは、歴代の王たちに顔向けができぬな」
「この件は、最終的に旅の魔術研究者、名はバラギと名乗りしローブを着用した男により収まったと聞き及んでおりますが……」
「うむ、何とも怪しい話よの。事件の流れを聞くに、そのバラギとやらがラハスをけしかけ、痕跡を抹消するためにみずからトドメを刺しに出て来た……と、穿った見方をすることもできる……要注意というところじゃな」
(※第54話~第60話辺り参照)
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