第449話 賊頭殿を手厚く迎え行こう
「ん……ん……」
シャルーアの唇を、まるで喰らうように深く強く激しく奪うカッジーラ。
彼のキスはいつもこうだった。とにかく激しく、支配的な意欲と心から惚れさせようという意欲が伝わってくる。
―――が、今そんな事をしていてもいいのだろうかと、シャルーアは不思議に思う。
「あー、親分ー? お熱いとこ悪いんだケド割と劣勢よー、どうしますー?」
ピマーレが、もしもーしと呼びかけながら問いかけてきた。
するとカッジーラはようやく、ポンッといい音と共に互いの唾液を宙に舞わせながらシャルーアから口を離した。
「ああ、すまねーな、見せつけちまってよ」
「別にいーんだけど、お縄になったらそんなコトもできなくなるんじゃない? もうちっと危機感よろしくってトコロで一つよろしく。んで、完璧出入口詰まってる上に、壁の内側まで押されて、もう入り込まれてるって状態なんだけど」
名残惜しいとばかりにペロリと舌なめずりしながら、ピマーレの戦況報告を聞くと、カッジーラはフーンと気のない返事と共に周囲の壁を見回した。
この、オードモン工資大臣の別邸はかなり高く分厚い壁に囲われている。元々はオードモン大臣が外に漏れたらヤバい事をしたり扱ったりするために用意したのだろうが、おかげで防衛拠点としては最高だ。
なにせ一つしかない外壁の出入口を突破させなければいいので、少数で篭っての戦いがしやすい―――が、その出入口を突破されてしまったなら一転、窮地に陥る。
完全に逃げ場がない。
「隠し通路はダメだったんだよなぁ?」
「うん、この別邸の持ち主がひっ捕らえられた時点で、ここの構造はぜーんぶあちらさんに丸見えなのは当然―――んで実際、隠し通路は全部、兵が詰めてたってウチの手下から報告あったよ」
今度こそ絶対絶命のピンチ、のはずなのだが、何故かカッジーラは他人事のように余裕な態度のままだった。
「ピマーレ、お前の意見は? この絶体絶命を無事に切り抜ける……最低条件はもちろん命あっての物種+このシャルーアちゃんを持ってく、としてだ」
「何その無理難題。しかも他力本願て、どうなんです親分?」
「ははは、まーそー言わずにさ。何かあるなら遠慮なく言ってみろ、っつー事だ」
呆れたと言わんばかりの表情になるピマーレだが、黙ったかと思うと律儀にそのお題について少しだけ考え、そして改めて口を開いた。
「親分だけならワンチャン、強行突破とか出来たかもだけどねー。そのコも一緒って条件じゃあ、それはさすがの親分でも無理っしょ? ならあの高い壁をどーにか越えるとか、そんなんしかないんじゃない? ……登れるかと言われたら絶望的だと思うケドね」
後宮を覆う外壁よりも、なお高く、厚く、それでいてほぼ垂直に近い鋭角。
しかも表面はツルツルに仕上がっていて、手足を引っかけられるような凹凸が一切見当たらない。
そもそもこの外壁が登れるのであれば、王国側の兵士はわざわざ唯一の出入り口だけに攻め寄せず、外壁を登り越えて攻め入ってきていた事だろう。
「ピマーレよぅ。もしもだ、乗り越える以外によ……
「……乗り越える以外、ねぇ」
ピマーレは怪訝そうにジト目でカッジーラを見る。その表情は、まさか今からあの分厚い壁をどこか掘って穴を開けようとか、そんな力業をしようというんじゃないだろうな、と小バカにしたものだった。
それが簡単にできるのであれば、外壁表面に傷をつけて手足を引っかける場を作り、登り越えればいいだけ。
だがこの外壁は簡単に傷がつかない。
どれだけ金にモノ言わせて築いたモノかは知らないが、従来のこの辺りの一般的な壁の建造常識を越えた最新技術が導入されており、表面を非常に堅く仕上げてあって、掘削用の専用道具があったとしても、崩す時間と労力は凄まじくかかるだろう。
だがそんな懸念を抱くピマーレに、カッジーラは悪戯っぽく笑い返した。
・
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「ここだ。壁のこの部分……ちょうど屋敷の裏手だが、ここに秘密の抜け穴がある」
カッジーラは、戦いの方はすべてモルハドに任せてしまい、30人ほどのピマーレ隊の手下とシャルーアだけを連れて、別邸後方の外壁まで来ていた。
「どこにもそれらしいところは見当たりませんが?」
ピマーレが目をこらして壁表面を見るも、隠し扉のような痕跡はない。
だが、カッジーラは自信満々に微笑んだ。
「ピマーレ、シャルーアちゃんを頼む。代わりにお前んトコの野郎どもを借りるぜ。……おい、お前ら。横一列に広がれ。一斉にここの壁を押すぞ!」
カッジーラを筆頭に、男達が壁の前に立つ、そして―――
「せーのっ」
ズ……、ズ……、ズ……
綺麗だった壁に、ピッと線が入る。そして僅かずつ壁の一部、およそ横5m×高さ3mほどの範囲が、奥へ奥へと押し込まれていく。
そして、分厚い壁を抜け、綺麗な長方形に外壁はくりぬかれた。
「フー……どーだ、見たか? おおかたオードモン大臣サマが、最後の最後の抜け穴に用意して―――」
「いや、その穴……ついこの間、俺があけておいた……念のため。よく分かったな、お前、やる」
(※「第429話 虎口に飛び込む少女は欲深い」参照)
軽く得意げになりかけていたカッジーラ、だが穴の先にはこの穴をくりぬいた張本人のムシュラフュンを筆頭に、リュッグ達が多勢を配して待ち構えていた。
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