第436話 優れた男達を考察する後宮
その日から、王都におけるカッジーラ一味の
「くそがっ、逃げ場がねぇっ!!」
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「調子に乗ってんじゃねぇぞ、この―――……ぐはっ」
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「ひぃいい、命だけはお助けー!」
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ファルメジア王が差配し、リュッグ達が最初に3分隊を壊滅させた。その結果をもって、ファルメジア王は居並ぶ大臣達にカッジーラ一味への反撃成果を初めて示す。
当然、彼らは驚く。秘密裏に陛下がことを運ばれ、そして結果につながっているという事実は、臣下である大臣達にとっては “ 王みずからの手をわずらわせる無能 ” と評されかねない悪材料以外の何物でもない。
さらに直接賊徒に当たるべき治安維持部隊にとっては、一層の奮起を促される出来事だ。
王宮は一気に慌ただしくなり、王都内においては犯罪に目を光らせる兵士達の視線は自然、鋭くなった。
「じゃあ、陛下は上手いことやれたわけだね」
王宮での話を聞き、ハルマヌークはホッと安堵する。
兼ねてよりの話から感じるのは、カッジーラ一味への対処というよりかは、大臣達との駆け引きで主導権を握れるか否かの方が、ファルメジア王にとっては頭を悩ませるところのように感じていたからだ。
「諸大臣方々は皆、大慌てで動き始めていらっしゃいます。陛下の水面下でのご尽力に対し、見劣りしない成果をあげなければならない……そうでなければ今後、政治の場における彼らの影響力は大きく低下してしまう事になるでしょう」
ヴァリアスフローラの説明に、ハルマヌークを中心とした後宮の側妃達はふんふんと興味深そうに頷き聞いている。
「その中に、異なる動きをなされる方々がいらっしゃるそうで、その方々が本命になるとリュッグ様はおっしゃられています」
シャルーアが手紙を取り出し、間違いないか今一度確認する。
リュッグによれば、大臣達にとって王の活躍は寝耳に水―――つまり自分達の一切あずかり知らない話になる。
なので多くは王に負けじと手柄を立てることに意識が向くが、その中でまったく違う理由で慌てふためく大臣がいる。それこそが裏でカッジ―ラ一味と繋がっている者達だという。
「かの方の御慧眼と御助力、素晴らしいものです。陛下も大変に助かっていると常々おっしゃられておられます……さすが、リュッグ様ですね」
そう言うヴァリアスフローラの表情が
しかし後宮、それも立場上、指導しなければならない対象である側妃たちの前だ。すぐに茶を一口たしなみ、緩みかけた顔を引き締め直した。
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彼女たちが後宮ロビーで茶の席を楽しんでいる空間、その脇の壁際。
護衛として控えるラフマスは、同じように隣に立って控えているマンハタに、態勢そのままで話しかけた。
「……なぁ、アンタはいいのか? このままだと古巣がやられちまう事になるんだぜ?」
考えてみれば奇妙な話だ。
ラフマスは元治安維持部隊で、マンハタは元カッジーラ一味。本来ならまさしく互いに敵の立場にあった者が、こうして隣り合って立っているのだから。
「別に未練はないぜ。シャルーア様に仕えられる悦びを知った今、あの方の傍以外に俺の居場所はないからな」
大した忠誠心だ。ラフマスは思わず小さく口笛を鳴らした。
「ただまぁ……このままカッジーラ親分が素直にやられるとも思わねぇがな」
「? どういうことだ?」
「俺なんかはたいして頭も良くねぇから、理解できねえんだがあの方―――いや、アイツはこう、俺達のような欲まみれの人間たぁ、モノが1つ違うんだ。考え方っつーか、見ている視点っつーか……なんて表現すりゃあいいのか分からないんだがよ」
言いたいことは何となくだが、ラフマスにも分からないでもない。
そもそも当初、カッジーラ一味は20~30人規模の賊集団だと
ところが王都に入り込んでいたその実態は100人規模を軽く越えていた上に、自律分隊制という統率方式を取っているなど、並みの賊頭目に出来る考え方ではない。
「(トップか、それを支えるところによっぽど優秀なのがいるかしなきゃ、国の中心地の王都が手を焼くようなレベルで暴れられるわけねぇもんな……)」
賊というのは、どんなに手こずらせられたとしても限度というものがある。
ファルマズィ=ヴァ=ハール王国がいくら平和ボケしていたといっても、治安維持部隊のように最低限度の軍事力は持っているわけで、それを相手に長々とやりたい放題できる賊徒集団―――ラフマスは、カッジーラ一味が並みでないことを改めて再認識する。
「とにかく、ただ者じゃあないわけだ?」
「ああ、そーゆーこった。……もっとも、シャルーア様と比べたなら、さすがの
鼻息荒く、自信たっぷりに言い切るマンハタ。
ラフマスも、そこに関しては何となく同意できる―――彼女はとても物腰柔らかで落ち着いた美少女だが、神秘的な何か、という想像も理解も到底及びそうにない存在だ。
カッジーラはあくまでただの賊徒にしては優れていると評価はできるかもしれない。だが言い換えれば、せいぜい “ 優れた人間 ” でしかないという事でもある。
一国の王すら頭を下げる、“ 神 ” の少女が相手では、比べられること自体が可哀想だというものだろうと、ラフマスは苦笑した。
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