第427話 隠す灰色は暴かれる恐怖で黒に導く
カッジーラ一味による王都内での輸送隊襲撃事件は、王宮において大きく取り上げられた。
会議の席で責任を問う声の大きな大臣達は、とりわけ今回の輸送部隊の取り仕切りをした大臣とは政敵関係にあることで知られている。
しかし責任追及を受けた大臣は終始、余裕の態度でそんな声を聞き流していた。
「―――結局、会議は進まず終わりました」
ファルメジア王は困った連中だと言わんばかりにため息をつく。隣に座っているハルマヌークが飲み物を差し出した。
「今回のことは囮作戦だとお聞きしていますから、襲撃を受けた事は成功なのではないのですか?」
シャルーアが不思議そうに聞くと、ファルメジア王はええと力なく肯定した。
「表向きには、囮作戦であることを隠しておりますゆえ、真を知っている者は限られております。ゆえに彼らが責任を追及すること自体は想定通りの流れではあるのですが、その目的は責任をしっかりと取らせるというよりかは、己の利益上の敵を追い落とすため、必要以上に声を張り上げておりますれば……」
大臣達の会議での行動や態度は、国を良くするためではなく自分の欲のためだ。本当に情けないと、ファルメジア王は顔を片手で覆い、再びため息をついた。
「ですが、カッジーラ一味と繋がりのある者は、これでハッキリ致しました。情報と合わせて連中を抑えつつ、つながりある大臣の身柄も拘束せねば―――」
するとシャルーアは、ポンと胸前で両手を合わせるように叩いた。
「それでしたら、
「? シャルーア様、何か案がおありで?」
「はい、リュッグ様達からご連絡が参りまして、カッジーラ一味の本アジトの情報を掴んだそうですので、大臣さんを抑えるにはリュッグ様達とも連携が必要になるかと思います……陛下、皆さん、お耳をこちらに―――」
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翌日、王宮ではちょっとした話題が広がっていた。
「? 囮?」
「ああ、こないだのさ……」
「輸送部隊が襲撃を受けたのって……」
「え、それ本当かよ」
「陛下が密かに、掴んでるって話もあるな」
王宮の下っ端から偉いさんまで、誰もがその話で持ち切りになっている。
だが所詮はウワサだ。真贋のほどは分からないこと……だが、その話に顔色を悪くしている大臣が何人かいた。
「まさか……」「いやいや、そんな」「陛下が密かに動いてるとか」
そう言いはしても、彼らの心中は穏やかでいられない。
もしも本当だとしたら、自分達がカッジーラ一味と繋がっているところまで嗅ぎつけられてしまっているかもしれない。
なにせウワサ話の内容は、輸送部隊はカッジーラ一味を引きずり出すためのエサでしかなく、引きずり出された彼らの後を追わせて、そのアジトの所在を陛下がすでに掴んでいる―――というもの。
確かに会議の場で、輸送部隊の責任者たる政敵の大臣が、何を言ってもやたら余裕な態度だったことや、結局最後までファルメジア王が彼に輸送部隊の被害について責任を取らせるような事を言わなかったなど、思い当たるフシが彼らにはある。
なので余計に青ざめてしまうのだ。
「(マズイ、このままでは―――)」
ある大臣に至っては、まだ日中で仕事の多い時間帯であるにも関わらず、密かに王宮を後にして、迂闊にもどこかへと急いで向かう始末。
……追いかけてくる者がいる事にも気づかずに。
―――王都内にある、某邸宅。
「心配いらねぇよ大臣さんや。あの襲撃で尾行してたヤツは確かにいたが、このアジトまでは誰も
カッジーラは気分よく寝てたのにと、大あくびをかきながら飛び込んできた大臣にそう答えた。
「し、しかしだな、万一にもということがあるだろうっ。もしもお前達がしくじっておったら、ワシも終わりなんだぞ!」
「( “ お前達がしくじってたら ” ……ねぇ。テメェがミスるとはこれっぽっちも考えちゃいねぇ。こーゆーとこはどこの国の
ギャーギャーとうるさい
面倒だが不安を解消させないと、いつまでもこのうっとおしくも小うるさいのは止まらない。
「……大丈夫だって。だいたい万が一、この本アジトを嗅ぎつけられたとしてもだ、アンタは知らぬ存ぜぬ、俺らに知らない間に勝手に占拠されて使われてたって言えゃいい話だろ? 完全無傷たぁいかねぇかもしんねぇがよ、少なくとも終わるってぇ事はないはずだぜ、大臣さん」
「! そ、そうか……そう、だな、確かに……うん、うん……」
「わーったらもっとドーンと構えてなよ、ドーンとさ。むしろ不安でビクビクしてちゃあ、逆に疑われちまうぜ? そーだ今夜、綺麗どころでも呼んでパーッと遊ぶってのはどうよ? 悶々としたモンは全部出しちまってさ、スッキリするぜ~?」
そういうカッジーラの提案に、大臣は不安感が弱まったこともあってか、あっさりと乗った。
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「(……シャルーア様、聞こえますでしょうか? ターゲットは今夜、例のアジトに商売女を呼びつけ、豪遊する算段のようです)」
窓の外、シャルーアの忠実なる使徒と化したマンハタは、一味を裏切る行動に一切の躊躇いもなく、大臣とカッジーラの会話を、念話で逐一伝えた。
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