第426話 飄々たる破廉恥が情報をお持ち帰り




 数時間後、影が相棒の引き込まれていった建物に戻って来る。と―――


「……おー、バイ君。おそかったっスねー。ちょこっとだけ心配したっスよー」

 服をボロボロにされ、酷くあられもない姿で建物の床の上に大の字で一人寝転がっているオーヴュルメス。



 ナマムーヤ達は相当に楽しんだ様だが、彼女を “ お持ち帰り ” しなかったらしい。


『ブルル』

「……おー、なーるほど。どーりでウチをテイクアウトしなかったわけっスねぇ。よっこらせっと……ふー、どーやら相手さんは相当教育しっかりしてるっスね」

 いかにオーヴュルメスが魅惑的であっても、部外者を本アジトに連れて帰るわけにはいかない。

 万が一にも情報がもれては、一味全てに危害が及ぶからだ。


 上体だけ起こし、バイコーンが影の中から取り出したタオルを受け取ると、全身の付着物や汚れを拭い、彼女はようやく一息ついたとばかりに長い息を吐いた。



「ありがとっス、バイ君。……ん-、服はもうボロボロにされ過ぎてキツいっスね、コレ。とりあえず隠すとこ隠すように結んでー……あー、ウチの持ってた財布とかも全部とられたっスから、文なしかぁー。新しい服買うのもしんどいっスねー」

 困ったなー、とあまり困ってないような態度でのたまうオーヴュルメス。

 しかしそれを見たバイコーンは、フフンッと誇らしげに鼻息をついた。


『ブルルッ、ヒヒーン』

「お? それマジっスか? だから遅かったんスね。……ああ、ウチの方は大丈夫っス。興味本位でヘンな人たちの後を追ってった町の女の子ってぇフリしといたっスから、王国に雇われた追跡者だとは思われてないっスよ」

 するとバイコーンは、影の中に鼻づらだけ突っ込んで、何かを咥え取り出した。


「金属のプレート? ……ほぇー、なるほどっス。いわゆる “ 手形 ” ってぇヤツっスね、コレ。でかしたっスよバイ君。きっと情報と合わせて、いっぱいお金貰えるっスよ、文無し即脱出っス」

 そうと決まればと、オーヴュルメスは立ち上がる。

 破かれたせいで肌の露出が増えてしまったのは仕方ないとして最低限、局部が見えていないか、自分の装いを確認しなおしながら建物を出る。

 バイコーンも改めて彼女の影に沈んだ。



  ・


  ・


  ・


 オーヴュルメスが戻って来た時、彼女ら追跡役を統率している兵士は、見知らぬ者達と話をしていた。



「お、ようやく帰って―――ど、どうしたんだその恰好は??」

「いやー、思いっきり捕まってイヤンな乱暴されまくったっス。財布もとられてしまったんで、新しい服買う余裕もないもんっスから、帰って来るまで随分といやらしい目で見られまくったっスよー」

 悲壮感なく飄々とそう言ってのけるオーヴュルメスに、兵士は申し訳なさそうな、色欲に惑わされそうなのを耐えるような、そんな複雑な表情を浮かべた。


「あー、でもヤられた甲斐も、時間がかかった甲斐もあったっスよ、隊長さん。本アジト? ってのの場所を始め、色々と分かった事が多いっス。あとこんなのも手に入れたっスよ」

 そう言ってオーヴュルメスは、丁寧に追跡からの出来事を話した。

 もちろんバイコーンの活躍の部分は自分に置き換え、上手くアレンジを加えた上で報告するのを忘れない。


「……! お、お前、凄いな……他の者はほとんどがブラフの建物の場所を突き止めるので終わっていたというのに」

「いえいえ、大した事ないっスよー。まー、ウチの色気のおかげっスかね、ぜーんぶスケベされたおかげっス、ウチ自体はそんな尾行とか上手くないですし、……ってか下手だから捕まっちゃったわけっスけども」

 自虐的に言いながら、後頭部をかいて活躍を照れるオーヴュルメス。

 すると兵士と彼女の会話に、兵士と話をしていた男が割って入ってきた。



「オーヴュルメスさん、と言ったか。俺はリュッグという者だが、もう一度詳しく話を聞きたい。良いだろうか?」

「あー、呼び捨てでいいっスよー。ウチみたいなガキに敬称なんて不要っス、えーとリュッグさん。んで、何がそんなに詳しく聞きたいんスか? ウチのスリーサイズなら上から94、52、88で身長は153で体重は秘密―――」

「い、いや、そうじゃあない。カッジーラ一味のアジトについてだな……」

 タイプはまったく違うものの、どこかシャルーアに似たようなフィーリングを感じるなこのコ、とリュッグは戸惑いながらもブラフの建物の位置や内装、本命のアジトへの連中の移動の様子などなど、細々とした事を聞いていく。


 恐らくは、虚偽の内容を述べていないかの確認―――プラス、この報告自体が、カッジーラ一味に加担した行動でないかどうかを調べるためだ。



「(このリュッグさんって人、しっかりしてて中々渋いオジサマっスねー。こーゆーオジサマは好みっス)」

『(ブフーッ)』

「(やきもちっスかバイ君? 大丈夫っスよ、報酬いっぱいもらって美味しい物たくさん食べて、今夜はしっかりバイ君のお相手するっスから、ね?)」

 相棒の悶々としたモノを全て受け止めるのもオーヴュルメスの役目だ。


 そのためにも、より報酬をたくさん弾んでもらおうと、彼女はリュッグにこれでもかと全て話した。



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