第415話 基地局アンテナは抱擁にて溶接される




 ホマール達、約15名の元治安維持部隊所属兵士が異動させられたのは、確かにファルメジア王が自分の直接動かせる手足を欲したという側面はある。


 だがその本命たる目的は別であった。


「……そういうわけで、そなたらには余の直下の兵という建前・・で彼女らに協力し、その手足となる働きを期待するものである。もちろん、余が何かを命じる事もあるであろうゆえ、心してもらいたい」

 ファルメジア王がそう述べると、ホマール達は戸惑い、そしてラフマスは冷や汗を流した。



「(マジかよ……陛下に直で仕えるってだけでも相当なことだってのに、か、神さまの手足になって働けだぁ?)」

 名誉や栄誉といったものを好む人種ならば、ものすごく喜んだであろう大抜擢。だが、元が下っ端も下っ端な彼らには、喜びよりもプレッシャーが勝る。

 何せご期待に応える能力を持ちあわせている自信などこれっぽっちもない。責任重大な仕事をお任せされるような器ではないのだから。


 そんな事をラフマスが考えているとシャルーアがポンと、自分の胸前で両手を叩き合わせた。


「ご心配には及びません。皆さまには王宮の外との連絡などを主にお願いする事になるかと思いますので、そう緊張なさらないでくださいませ」

 シャルーアの物言いはとても上品だ。それでいて見た目年齢相応の可愛らしい雰囲気も感じられる。

 穏やかに微笑む表情は見ていて安心するものがある―――が、次の瞬間、彼女は瞳を閉じて叩き合わせた両手をゆっくりと離した……両手の平が、焼けた炭のように煌々こうこうと輝いている!


「ん?「え?」「へ??」


 それを見て、何人かの兵士が間の抜けた声を出したが、シャルーアは構わず椅子から立ち上がり、最前列で膝をついていた兵士に歩み寄ってその前にしゃがんだ。


「ええと、少しばかりお熱いかもしれません……我慢していただけますか?」

 可愛らしい美少女の顔面が、僅かに困ったような表情を浮かべながら、10センチほど前にある。

 兵士は紅潮して声を出さず、つい反射的に何度も頷き返した。


「ありがとうございます。では、失礼致しますね」


ガバッ


 シャルーアが兵士に抱き着く。かなりしっかりとした抱擁だ。

 両腕を兵士の脇の下から遠し、相手の背中に両手の平をつけ、顔は頬をこすり合わせるような位置と、互いの身体は密接している。


「ぉっ、おおお? こ、これ―――……は? ……ぁっ、あっおあわっぁ!?」

 最初こそ、シャルーアの豊かな胸がひしゃげるほど押し付けられ、その感動的な柔らかさと乳房の圧迫する感触に、つい喜びかけた兵士。

 ところが、すぐにその表情は驚きへと変わり、そして戦慄、恐怖、苦悶へと変貌していった。


「おぁああっあああああ……、あづっ、あづぅううっ!!? ―――…ムグウ!?」

 たまらず叫び声をあげる兵士の口を、近衛兵の一人が手で押さえ、また暴れないようにとシャルーアの抱擁でカバーしきれない部分を押さえつけた。


 両手の平がつけられた背中が、シュウウゥと音を立て、薄っすらと白い煙が立つ。


 ―――と10秒ほどそうしていたかと思うと、シャルーアは抱擁を解き、兵士の身体を離した。


「終わりました。苦痛をおかけして申し訳ありません。……チュッ」

 はひーはひーと大量の汗をかいてその場で激しい息をついている兵士の頬に謝罪のキス。


 そして次に手近な位置にいる兵士に向き直った。次はあなたの番です、と言わんばかりに。



  ・

  ・

  ・


「ええと、簡単に申し上げますと、兵士様たちの精神に “ 私 ” わたくしを焼きつけさせていただきました」

 一通りが終わり、後宮のロビーにて一服する中、シャルーアは先ほどの仕儀についての詳しい説明を始めた。


「一時的なことになりますが、私が望まないことはお話できなくなり、逆に私が求めたことに関するお話ですとご本人がお忘れになっていたとしても、思い出して話せるようになります」

「それは……つまり、かの兵達が一度でも見聞きした事であれば、たとえ本人たちが覚えきれてなかったとしても、確実に連絡できると?」

 ファルメジア王が驚きながら聞く。それが本当ならば、相当に安全性の高い情報連絡が可能になる。


 シャルーアは頷きつつ、さらに続けた。


「加えまして、私の行える事にある程度でしたら呼応していただきやすくもなります。例えば……先ほど彼らをお呼びだて致しました念話テレパシーなども、上手くいくかどうかが不安でしたが、次から彼らがお相手でしたら、より安定して行えるようにもなりました」


 ファルメジア王は開いた口がふさがらない思いだった。



 聞く限り、アムトゥラミュクムが表に顕現していた時よりもできることはかなり限られるというがとんでもない。

 常人の常識でいえば、シャルーアが今できることですら十分すごい。


 アンシージャムンとエルアトゥフは母と慕う彼女の凄さにキャッキャと喜び誇り、話を一緒に聞いていたハルマヌークら後宮の側妃らは、いまいち理解できないと首をかしげていた。



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