第414話 戦慄の真なる謁見




 王宮と後宮を繋ぐ間は結構な広さがあり、壁にも隔てられている。

 入り口となる箇所の前には多少の空間があり、後宮に立ち入る事の出来ない者が、何か関連する仕事などを行う事になる際に、集合させられる場所として利用されていた。


 そんな場所に、ホマール以下兵士15名は慌ただしく集合してくる。


 遠目にも陛下と謁見の際にもいた女性達……そしていかにも強そうな近衛兵が数名、彼らの両端を固めるように槍を縦にして直立しているのが見えた。




「(……あんなゴツいのがいるのに、今更俺らみたいな下っ端は必要なのか?)」

 ラフマスは疑問に思いつつも、他の兵士達と共に陛下の前に滑り込むように膝をついて頭を下げた。


「済まぬな、皆。くつろいでおったであろうに」

「そんな、お謝りにならないでください陛下。我々はお呼びとあらばいつでもはせ参じるべき身でございますればっ」

 ホマールが少ししどろもどろになりながらファルメジア王にそう述べる。

 するとその様子が面白かったのか2人の女の子が軽く笑いかけ、それを1人の女の子に優しくたしなめられていた。


「(結局、あの女の子たちはどういう者なんだろう……?)」

 自分達の頭に響くような声で呼び出したのは、あの2人をたしなめている女の子だろうか?

 しかも、あの時の言葉はまるで、自分達の会話を聞いていたかのような口ぶりでもあった。

 頭に直接響く声―――その時点でも驚愕モノの超能力だ。




「さて、呼び出したのは他でもない。ここにいる者を改めて紹介しておく必要があるのでな……お前達」

「「ハッ!」」

 ファルメジア王が呼びかけると、両端を固めていた近衛兵達がそれはもう素晴らしい動きでもってこの場の空間を隔離するように配置についた。


 王宮への扉を閉ざし、どこに用意していたのか衝立ついたてのようなモノまで取り出して周囲を囲う。

 場はあっという間に、さながら天井のない部屋のような状態になり、椅子まで用意されていく。


「(なんだなんだ?? 何が始まるって―――……へ?)」

 違和感を覚える。

 用意され、並べられた椅子。ラフマス達下っ端兵士の眼前中央は、当然ながらファルメジア王が座るため、一番豪華なモノが設置された。

 だが、ファルメジア王がその椅子に座るにしてはおかしい、やや横に避けるようなところに自らの位置を置く。


 と、次の瞬間―――王みずからが、一人の女の子をエスコートするようにその中央の座へと誘いはじめエスコートる。

 それは他でもない、先ほどクスクスと笑ってしまった2人の女の子をたしめていた女の子だった。


「……」

 最初は遠慮していた彼女だが、仕方ないと渋々ながら目を伏して中央の席に座る。

 背もたれに背中を預け、ゆっくりと瞳を開き、眼前に膝をついて待機しているホマール達を見た。



「皆の者、心して御名を聞くがよい。彼女こそ我がファルマズィ=ヴァ=ハール王国が秘して敬愛せし神が1柱をその身に宿せし末裔、シャルーア=シャムス=アムトゥラミュクム様、その人である」

 ホマールら、14名の兵士達はへ?と間の抜けた顔をする。

 だが、唯一ラフマスだけは、ギョッとしていち早く状況を理解した。


「(……待て、ちょっと待て! いや、本当に神様云々は置いといてだ……陛下がご自身で紹介で、しかも―――)」

 横目でチラリと周囲を固めている近衛兵を見る。

 彼らは驚いてはいない―――つまり、この事を先だって重々承知している者達であり、かつこの場に居合わせさせて問題ないと、ファルメジア王が信を置いている者達であるということ。


 つまり自分達は、絶対的な機密を今、聞かされているということだと、ラフマスは戦慄した。



「……そこまでお固く考えられなくても大丈夫です、ええと……ラフマス、さん?」

「!!? え、あ……お、俺の名前……、……心の中……が……読め、る……?」

 数拍おいて、ようやくホマール達も理解の色を浮かべ始める。


 今置かれている状況、そして、少女の言葉とラフマスの驚愕が何を意味するのかを。


「まさか」

「ほ、本当に??」

「……、か……かみ、さま……?」

 驚き、そして恐怖。

 兵士達は全身の毛が逆立つような思いがした。

 他人の心の中が読める―――否、それだけじゃない。あの食堂でこだました声は間違いなくこの少女だ。しかもあの時、食堂に彼女はいなかったという事実。


 何も知らなければ一見して鼻の下を伸ばし、劣情に身を焦がしてしまいそうなほど魅力的な容姿の美少女。だがその正体が神様であるというのなら、逆にその魅力のほどには納得がいく。

 どこか神秘的なものを感じられる10代美少女の美貌と色香は、決して兵士達がその生物本能の一つたる欲望を燃やしていい相手ではないと、今更ながら自分達の魂が告げて来るかのよう。


 震えだす者、汗が止まらない者、ある者に至っては過呼吸気味にすらなっていた。



「皆さん、落ち着いてください。そんなに恐縮されなくて良いですから……――――スーゥ……ハァー………、……」

 深呼吸、そして改めて両目を開く少女から風が吹く。


 いや、そう感じたのはホマールら15人の兵士達だけだった。路傍の草花は一切揺れていない。


 しかしその感覚が数秒続いたかと思うと、彼らは自分でもアレ?と不思議に思うくらいに、平常かつ心穏やかな状態になっていた。



「落ち着かれましたか? では、お話をいたしましょう」



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