第416話 悪党と悪党が手を結ぶ理由




 王都ア・ルシャラヴェーラはかなり人が多い。しかも広くもある

 基本、何者であってもこの都市で何かを調べたり探したりするのは困難を極めるだろう。




「―――だが、だからこその利点もある。それは向こうに勘繰られないで済む可能性も高まるという点だ」

 追われる立場にある者は基本、よほどのバカを除いて追って来る者を警戒する。カッジーラ一味も当然、治安維持部隊という敵がいるわけだから、常に警戒しているはずだ。


 しかし広い王都に過密気味の人口のこの場においては、ハッキリと自分達の事を探ったり追ったりしている人間を察知することは難しい。


「分かりやすい例を言えば、なんら無関係な者で尾行けられていると思ったら、たまたま同じ方向に移動しているというだけだったり、とかだな」

「なるほど。俺、理解……敵、察知されても、誤魔化せる」


「その通り。正解だ、ルッタ。もちろん人が多いといっても場所によってはその密度にかたよりもある。行き交う人間が少ない場所では態度や動きに注意しないと、不審に思われやすいぞ」

 ザーイムン達を連れながら、リュッグは今日も王都の中を動き回っていた。

 基本は彼らにイロハを教えつつ、人気ひとけの多い場所を中心に歩き回り、時折 “ 釣り ” をしては路地裏で接触してきた軽犯罪者バカを返り討ちにしては近くの治安維持部隊の詰め所に突き出すを繰り返す。



 カッジーラ一味に関してはまだ何も収穫こそないものの、それ以外のスリやら強盗やらの犯罪者を捕まえてきてくれるとして、治安維持部隊の詰め所の兵士達とは相応に顔を覚えてもらえた。

 これはリュッグにとっては安堵するところだ。なにせ人間に限りなく近づいたとはいえザーイムン達は大柄だ。人によってはその外見に対して怪訝に思うかもしれない。

 しかし公僕こうぼくの取り締まり側に顔を覚えてもらえていれば、何か事件に巻き込まれたとしても、怪しく思われない。


 特に一番大きなルッタハーズィは、行く先々でやはり目立っていた。

 もっとも、その目立つおかげで “ 釣り ” も順調に進むし、分かりやすい犯罪者のたまり場スラムなどがないおかげで、リュッグ達が “ 釣り ” まくってもその情報が犯罪者側に回らない。


 活動的にはリュッグ達にとっては理想ともいえる状況にあるといえる。


 だが、当初見込んでいた目標であるカッジーラ一味に関しては、なかなか得られるものがないまま、この日もヴァリアスフローラの私邸に帰る事となった。



  ・

  ・

  ・


「おかえりなさいませ、リュッグ様、お三方!」

 いつもの如く、リュッグに飛びついてくるルイファーン。

 慣れたとはいえ、人前で飛びつかれるのは勘弁してほしいとリュッグは彼女を引っぺがした。


「後宮のシャルーア達からは何かありませんでしたか?」

 軽く頬を膨らませながらも、リュッグから離れようとはしないルイファーン。

 書類を取り出しながら、リュッグ達の留守中にあった事を報告する。



「陛下のお計らいで、幾人かの自由に使える兵士を得られたそうですわ。それとこちらはお母様から……王宮内の警備担当部署が怪しいと目ぼしを付け始めたという者達のリストだそうです」

 その紙面を見たリュッグは、軽く眉をひそめた。


「……なるほど、“ 虫食い ” がいるのか。まったく」

 リュッグがそう呟くと、ムシュラフュンが首をかしげた。


「 “ 虫食い ” ……とは?」

「ああ、果物や野菜なんかにはたまに、虫が喰ってしまったものとかがあるだろう? アレに見立てて、味方の組織や集団を内側から脅かす者を、そういう例えにした呼び方だ。今回の場合は裏切り者……だな」

 何せ渡らせた書類に記されていた怪しい人間の中には、この国の大臣が混ざっていたのだから笑えない。

 マフィアとポリスが裏で手を結んでいるようなものだ。



「(なるほどな……いくら “ 釣り ” をしてもカッジーラ一味の情報が出てこないのはこういうワケか)」

 カッジーラ一味が王都内で悪さをしているのは間違いない。

 そして、彼らも人間である以上は酒場や食事処など、日々の暮らしに関係する場を利用し、その痕跡なりは残る。

 裏社会の領域が存在しない王都とはいえ、犯罪者同士の繋がりがゼロではないだろう。

 酒場などで察しのいい犯罪者が、同業者の匂いを嗅ぎつけ、情報を得ようと会話をもちかけたりもする。

 そうした僅かなところから、カッジーラ一味の情報がそこらの犯罪者にもジワジワと回っていき、本命ではない犯罪者連中を “ 釣る ” ことで、巡り巡った情報をそのうち得られるだろうと、リュッグは踏んでいた。



 ところがどれだけ “ 釣り ” をしても、カッジーラ一味の情報がまるで出てこないその理由はつまり―――


「おそらくこのリストの中の大臣の誰か、もしくは全員が、カッジーラ一味と繋がりを持っている。そして奴らを自分の庭にかくまっているな」

 不特定多数が利用する場ではなく、大臣の息のかかった区画で生活が成り立っているとすれば、連中についての情報が同業者の間でほとんど巡っていないのにも頷ける。


 確かに犯罪者にとっては、尻尾をつかまれることなく活動し続けられるのは理想的だろう。なら王都内でそれなりに幅をきかせた有力者と手を組むのは十分にあり得る。



「と、いたしましたら……そのお大臣おバカさんにも犯罪者集団に肩を貸すメリットがある、という事になりますわね?」


「そうです。さすがにその大臣は自分の利益を脅かすことは許さないでしょう。なので……リーファさん、後宮のシャルーア達にこの事を連絡し、リストの大臣の利権が及んでいる王都内の場所についての情報を、陛下から教えてもらえないか、たずねさせてくれませんか」


「ええ、お任せくださいな。お母様が行き来できない時間は、新しく手足になられたという兵士の方々が明日からいらっしゃるそうですから、その時にしかと申し付けておきますわ」

 あとはこれまでカッジーラ一味が悪さをした場所について調べればいい。



 彼らがこの王都内において、犯罪を行っていない区画とリストの大臣達の利権が絡んだ区画が合うところが、おそらくカッジーラ一味が潜伏している区画だ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る