都を蝕む虫

第401話 王都を手玉にとるカッジーラ一味




 彼らが首都ア・ルシャラヴェーラにやってきたのは、シャルーア達がユールクンドにたどり着く2週間も前のことだった。




「……カッジーラさん、本当に大丈夫なんですかい? いきなりファルマズィの首都でやるとか、ギャンブルすぎやしませんか」

「ビビんな、モルハド。むしろ今だからこそいいんだよ」

 カッジーラ率いる賊集団は、このファルマズィ=ヴァ=ハール王国の人間ではない。隣国、ワダン=スード=メニダより流れて来た者達だった。


「調べたところによりゃあ、この国の軍は魔物やら周辺国の動きにピリピリしてやがるのは本当だ。ところがよ……肝心の軍が足りてねぇのよ。国境付近を睨む方面軍ってのが睨みをきかせてる地域じゃあヤベェが、逆に王様のお膝元は軍人が出張って不足している……ってぇワケよ」

「さすがカッジーラさん、そんなしっかり調べをつけてたなんて、いつの間に!?」

 部下が口々に褒めたたえだすが、カッジーラは作り笑いの後ろに真実を隠した。



「(ハハ……妙なローブ野郎・・・・・・の入れ知恵だっつーのは、言えねぇなこりゃあ)」

 数日前、ファルマズィ=ヴァ=ハールに入国しようとしていた彼に接触してきた謎のローブの男。

 もたらされた情報から、カッジーラは首都ア・ルシャラヴェーラがねらい目だと考え、手下ともどもいきなり乗り込んできた。


「……加えて、そこら中からこの首都に人間が集まってるってぇ話だ。獲物はわんさかいる。なら、安全なトコでチマチマと稼いでる場合じゃあねぇってもんよ」

 正直、カッジーラとて信用していたわけではない。

 実際に首都に乗り込み、情報に間違いがないか確かめてからどうするかを決めるつもりだった。


 そして、それが真実であることに理解至った時、カッジーラはこの大チャンスを逃す手はないとして、このア・ルシャラヴェーラでの活動を開始した。







 そうはいってもイチ国家の首都であり、王がいる王都であるア・ルシャラヴェーラだ。

 治安維持部隊は最低でも1万を維持し続けているし、町中各区の利権を掴んでいる貴族の私兵などが目を光らせている。


 賊がその仕事を簡単に行えるほど、隙があるというわけではない。


 だが、カッジーラはある事実に対して鋭く目を付けていた―――王都人口の増加である。



「……治安維持の兵隊どもは頭数が増えねぇ。が、首都にやってくる人間の数は日々右肩上がりよ。これがどーゆーことかわかっわかるか、おめぇら?」

 部下達に問いかける。

 だが、誰一人としてカッジーラの言う事にピンとこない様子だった。


「へへ、その “ 人の多さ ” こそが、武器になるってぇ事さ」


  ・


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 王都内で慎重に拠点を構えてから、カッジーラ達は徐々に活動を活発化させていった。

 最初は人混みでのスリや、店頭販売物を盗むなど、簡単な強盗犯罪に終始。兵士に追われても逃げ切れることを確認し、かつカッジーラ達が王都の地理や状況になじむ・・・時間をしっかりと取った。


 そして、まるで生まれ育った勝手知ったる我が町のような感覚にまで、王都暮らしの経験を積み終えた頃から、彼らの活動は加速し……



「へへ、ようやっと指名手配だとよ。この国の王様ってのは随分とぬるいもんだ」

「ワダンじゃあ、盗み1回で即手配書が回ったもんだってのにな。平和ボケしてるってーのは間違いなさそうだぜ」

「カッジーラさん、そろそろデカいヤマにも挑戦しやしょうぜ。この国のヤツら相手ならオレら、やりたい放題できるってもんでさぁ!」


 コツコツとしたことでも、成功の回数を重ねれば自信をやしなう。


 手下たちの確かなやる気の高まりにカッジーラはほくそ笑みながら、その勢いを頼もしく思った。


「よーし、ならそろそろ危険を伴うトコロに手ぇ付けてくぞお前ら? 覚悟はできてんだろーなぁ?」

「「「うっす!!」」」


 そして、カッジーラ一味は王都ア・ルシャラヴェーラに根付き、軽犯罪だけでなく貴族の屋敷や商店への侵入および強盗や、追いかけて来た兵士を仲間の待ち受けている場所に誘い込んでの殺害など、犯罪行動をエスカレートさせていった。




「く、くそ! また逃げられっ……」

「ぐううう、これじゃあまた上にドヤされるぞ」

「おのれおのれおのれーーーっ、カッジーラ一味めぇ!!」

 治安維持の兵士たちが彼らをいつまでも捕えられないでいる理由は、増えすぎた王都の人口が、そのまま犯罪者たちをかくまう、生きた障害物になってしまっていた事だ。

 カッジーラおよびその手下たちは、コレを利用する術にたけており、ただでさえ武装して身軽とは言えない兵士達を翻弄することは、非常に簡単であった。



 こうしてカッジーラ一味という、たった20~30人規模の賊のせいでこの国の首都たる王都ア・ルシャラヴェーラは、一気に治安が悪化し、入出に際して厳しい審査を強いるまでに至ったのだった。




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