第399話 賑やか唖然なる王都への旅路




 エル・ゲジャレーヴァの魔物化した囚人達が討伐され、落ち着いたこともあってか、リュッグ達の再びの王都への道中は、多くの野の魔物に遭遇するモノとなった。


 しかし―――


「フンッ」

 ドバンッ!


「……ぬるい」

 ドシュウッ


「おそいおそい、そーれっと!」

 シュババッ


「ママの道を塞ぐのは許せないな」

 ドコォッ!


「ええーい、やぁっ」

 ザンッザンッ!!



 タッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人の5人が、あっさりと立ちはだかる魔物達を滅していく。

 息一つ切らさず、一行が足を止める必要すらない早さで、旅の脅威たちを瞬殺していくその強さに、王都から行動を共にしてきた隊長イクルド以下10名の兵士達は、今更ながらに感嘆せずにはいられなかった。


「何度も見ても、凄まじい強さですな」

「マジでそーっすよね。いや、なんてゆーか、頼もしいってのもありますけども」

 イクルドの隣で副長のサルダンも、半ばポカンとした様子でその戦いぶりを眺める。


 王の命令でよくわからない、怪しい女と傭兵に付けられ、王都を出発してからのこれまでは、彼ら兵士達にとって、自分の持っていた価値観を完全に一変させる要素が多すぎた。

 その中でも特に強烈だったのがやはり彼ら、タッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人の5人の存在だろう。





「本当にすごいですわ。あのような強さを身に着けるのは、やはり難しいものなのでしょうか?」

「ええ、まぁ……根本的に、人の身で易々と到達できる強さでない事は間違いないですが……」

 御者台で、ルイファーンにくっつかれながらも馬車の手綱を取るリュッグは、改めて少しばかり、不安を覚える。


 いかにヨゥイとはいえ彼らが悪でないことは間違いないが、もしそこのところをクリアできたとしても、その強力さが仇になる可能性もあるのだ。

 とりわけ権力を持つ人間は、その権力でどうにかできない強さというものを怖れる傾向がある。


 過去の英雄戦記などの歴史書を読んでみても、権力者の下で勇名を成した英雄はその後、その権力者によって形は違えど排除されてしまっている事が多々ある。

 一方で、権力者を後ろ盾にしなかった勇者は、その功名から時の権力者の1人へと昇華しているケースが多い。


 強者が自分の意思と力でのみ立つ場合は成り立つが、そこに権力名声に執着する者が関わると、強者の末路はロクなことにはならない。



 そんな不安をリュッグが抱いていると―――


「大丈夫です、リュッグ様。あの子たち・・・・・は問題ありませんから心配はいりません」

「! シャルーア、お前……」

 馬車の荷台で休息していたシャルーアが、まるでリュッグの口に出さなかった不安を読んだかのようにそう答えた。

 アムトゥラミュクムの学びを経て、シャルーアはそこまでは及ばないものの、神と呼ばれる彼女に通じる能力を得ている。


 何となくでも心を読まれるのはあまり気持ちのいいものではないが、少なくともこれからのシャルーアの人生においては間違いなくプラスになる。




「……やれやれ、成長著し過ぎて頼もしいやら寂しいやらだな、ハハッ」

「あら、大丈夫ですわよリュッグさま~、わたくしがずぅっとおそばにおりますから、寂しくなんてありませんわ」

 ルイファーンがそう言うと、シャルーアが荷台から御者台に移ってきて、反対側の腕に抱きついた。


「お、おいおい……」

「どうでしょうか……これで寂しくないと思いますが、いかがですかリュッグ様?」

 シャルーアとリュッグをサンドイッチした事で、ルイファーンが楽しそうな笑顔を浮かべ、ますますギュッと身体で押し込むように密着の度合いを深める。


 どうやらシャルーアは、ルイファーンが楽しくなるであろうことを察し、合わせたらしい。


「(空気を読んで、友人に合わせた行動を自発的に取れるようになった……というのはいい事なんだがなぁ)」

 そこのところはこういう事ではなく、もっと別のところでやって欲しいと、手綱の取りにくい状態になったリュッグは、困ったように笑った。


  ・

  ・

  ・


 タッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人達のおかげで、非常に早い旅程を進めるとはいえ、それででもエル・ゲジャレーヴァから王都までの道のりは1日2日では済まない。


 しかもリュッグ、シャルーア、ルイファーン、ハヌラトム率いるルイファーンの私兵達、タッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人にイクルド以下王都所属兵士10名と、それなりの規模の団体だ。


 王都の前、ユールクンドの町で4泊目を迎えた次の日……一行は足止めを喰らうことになった。


「ア・ルシャラヴェーラに移動できない?」

「はい。王都は今、往来が極めて制限されている状態にありまして……」

 リュッグに説明する町門の兵士も、本当に申し訳ないといった様子だ。


「王都で何かあったのか??」

「はい……どうやら他所よりの旅人を装って王都に入り込み、無法を働いている者達がいるようでして―――」

 門兵によると、1週間ほど前に王都へと入った2~30人ほどの集団が、どうやら賊の類であったらしく、王都内にて盗みをはじめとした犯罪行為を続けているのだという。

 組織だったその動きから、王は一時的に王都の出入りを厳しくし、身分や身元確認をかなり入念に行うようになったせいで、リュッグ達だけでなく、多くの者が何日も足止め状態にあるという。


「―――今も、その賊どもを捕えることが出来ておらず、王都内は殺伐としているとか……」

「なるほどな。そんな状態の王都にいったところで危険なだけ……それでこの最寄りであるユールクンドに留まっている連中も増えているワケか」


「はい。こちらから王都への立ち入り審査の申請も受けております。どうしても外せない御用がおありでしたら、申請いただけましたら王都にお届け致します。……もっとも審査がいつ通るか、あるいは通らないかのご報告すらもいつになるかは見通せない状況ですが……」

 王都内の治安が悪化しているというのであれば、申請を届けるのですら一苦労だろう。

 しかしリュッグは、やるだけやっておくほうがいいと思い、申請した。



「(問題は足止めされてる間をどうするか、だな……)」


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