第397話 焼き入れを羨ましがる子供達
「ぎゃぁぁぁぁぁーーーーっっっす!!!」
叫び声がこだまする。
それもそのはずだ。煌々と黄色に輝く刀の刃は、超高熱を帯びているように傍目には見え、そしてその表面が触れた肌からは、ジュッという音と共に薄煙が立っている。
「……あの、アッシらは一体何を見せられているンすかね、親分……」
「目をそらすな、アワバ。お嬢様が成されることだ……意味があるのだろう」
シャルーアの手伝いとばかりに、メサイヤとアワバが捕虜を押さえる役目を買って出た―――までは良かったのだが。
「はい、これで大丈夫です。では次の方」
何が大丈夫なのか説明がないままに、捕虜たちは次々と、なぜかその身に熱そうに輝く刀身の腹を押し付けられる。
まるで焼き印のように刃の形状の跡が残り、終えた捕虜たちはいつまでたっても悶絶し続け、石の床の上で悶えうごめき続けていた。
「(―――いや、あれは悶えるっていうか、冷たい石の床で冷やそうとしてんのかもしんねぇな……)」
正直、シャルーアがこんな事をしている意味が分からない。
刀の光輝き方や輝きの色からして、単に熱した金属、というものでないのは理解できるが、やってる事は熱した金属棒を押し付けてるのと何ら変わらない―――言葉を選ばないで言えば、ほぼ拷問そのものだ。
ただ、それにしては不可解な点が、もう1つあった。
「ンぉぉお……」「ほぁああ……く~ぅう」「ほっはほっはっ、うっほっ、うほっ」
輝く刀身を押し付け終えた捕虜たちは、苦痛を訴えていない。
むしろその悶絶っぷりは、何等かの快感のようなものを感じているようにすら見えるのだ。
「あの、シャルーアさん……
たまらずアワバが問う。するとシャルーアは、あっけらかんとしてはい、ときっぱり答えた。
「問題はありません、むしろ調子がとても良くなっているかと思います」
その一言で、ちょっと怯え気味だったまだな捕虜たちの表情が僅かに
「少しの間、皆さんを “ 直した ” 時の
「「「!!!」」」
一瞬で、捕虜たちの顔が先ほど以上に怯えたものへと戻った。
・
・
・
「情けない人間達だな。ママの優しさからの施しを受けられる……羨ましいくらいだ」
捕虜の叫び声やらうめき声やらが聞こえてくる中、ザーイムンが心の底から羨ましいと言わんばかりにそう述べた。
「俺も、そう思う。
ルッタハーズィが同意し、他の3人もウンウンと頷く。
「そーいえばさ、ムシュラはママーから何か言われてたけど、なんだったの?」
アンシージャムンが聞いてきたのは、シャルーアが捕虜たちにソレを施しにいく直前のことだ。
「ん。かーさん、俺に料理の用意をお願いした。あの人間達に食べさせるものだ」
そして捕虜全員にし終えた後に、その料理を振る舞うからと言われたムシュラフュンだが、まだ調理しようとはせず、兄弟姉妹達と共にここでおしゃべりに興じている。
「あれ、かかさまの言いつけなのに……ムシュラがすぐに動かないの、珍しいね??」
エルアトゥフはどうしたの? 問いかけるが、逆に、ムシュラフュンから見返された。
「先にエルアに話、聞きたかった。たぶんかーさん、エルアにしたのと同じこと、あの人間達にしているのだと、俺は思う。……首」
それは、先の戦いでシャルーアが咄嗟にエルアトゥフの首に刀を投げ刺した話だ。
その直後にエルアトゥフは活性化し、一時的に能力が高まった話は、すでにしている。
そのことからムシュラフュンは、今回のシャルーアのやろうとしている事が、それと同じなのだと考えていた。
すると他の兄弟姉妹たちも、改めてエルアトゥフを見る。
「……そーいえばエルア。なんか、ちょっと……また変化したんじゃない?」
「俺、驚いた。エルア、ますます
「うん、確かに。……エルア自身は、何ともないのか?」
そう言われたエルアトゥフ本人は、困惑しながら自分の手や脚をキョロキョロと見回す。
変化した自覚はないらしく困ったように首をかしげた。その仕草すら、シャルーアに似てきたような印象すらあった。
「かーさんがやろうとしてる事、エルアにしたのを同じなら、その後の食欲とか、どうだったのか、聞きたい。……用意する料理の分量、それで決める」
妹の変化に伴う食欲を参考に、ムシュラフュンは地獄のヤキ入れを受けている捕虜たちの料理を準備する。
事実、彼の読み通り、エルアトゥフは更なる変化の影響で一時的に食欲が増進していた。
そして実際に彼が作り、用意した分量は、捕虜たちに対してベストで無駄のない量であった。
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