第393話 照らして与え祓うは同源なる天光





 ザンッ!


『ゴふっ……』『ぐハァ……ッ』

 ユーヴァとジムカファは、エルアトゥフに斬られ、地に伏した。


 ヒュクロが死んだ時点で勝敗は決したが、そもそも彼に心から従う手下は少ない。グラヴァース南軍後陣への奇襲に参加した元囚人達は、首魁の死など関係ないとばかりに暴れ続け、戦闘状態は続いていた。




「調子はどうですか、エルアトゥフ?」

「はい、かかさま。最初はビックリしましたけど、すごくいい感じです」

 シャルーアが投げた刀が刺さった首元―――しかし、既にその傷はない。

 抑えられ、地面に倒れ伏したエルアトゥフは、シャルーアの刀が刺さった直後、腹ばい態勢のまま地面に弾かれたように跳びあがり、そのまま中空で高速回転して自分にとりついたユーヴァとジムカファを弾き飛ばした。


 そしてヒュクロが焼かれ終えるのとほぼ同時頃に、シャルーアの刀を首から引き抜き、二刀流でもって態勢整わぬままに回転切りを敢行かんこう

 ユーヴァとジムカファはその身に強烈な斬撃を受けた。

 


『ぐ……ググ……ゥ……』『ナゼ……突然……この、動き……ハ……』

 それまでのエルアトゥフもたいがいな強者であったが、刀が刺さった直後、より強さが跳ね上がったように二人には感じられた。


「このコはわたくしの眷属者ですから、力の影響を受けます。あなた方のようにその身を “ 魔なる者 ” に近づけた生命とは違い、私が込めた力はこのコには攻撃とはならないんです」

「かかさま、わざわざ説明してあげるなんて、律儀ですね」

 エルアトゥフはシャルーアを信奉レベルで信頼している。刀を投げつけられた時も、その刃を避けることなく受け入れた。

 当然、その時にはそうする理由は分かっていない。だが、刺さった直後、あの種の進化の抱擁の時にも感じた “ 熱さ ” が刺さった箇所から全身に広がり始めた事で、即座に理解する―――その投げた刀はいわゆる注射なのだ、と。


「もうこの方々は立ち上がる事もできないでしょうから、せめて何が起こったのかをご理解いただこうかと思いまして」

 実際、エルアトゥフが地面に倒された際、ユーヴァとジムカファの周囲にいた他の手下たちが、距離を詰めようとしてきていた。

 いかにエルアトゥフといえど、態勢不利なまま、襲い掛かられる敵が増えればさすがに危険―――即座に立て直させるため、シャルーアは力を刀身に込めた上で刀を投げた。


 敵にはその身を滅ぼす攻撃性。

 しかしシャルーアの力を受けて種の進化を遂げたタッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人達には能力向上効果バフをもたらす。

 刃が刺さることでのダメージはあっても、元より強靭な身体を持つ彼らには微々たるもの。


 あの状況下で瞬時に思い切った判断をしたシャルーアは、今までの彼女では考えられないほど冴えていたと言えた。



  ・

  ・

  ・


 そして、グラヴァース南軍の後陣は、ムーを中心に戦闘が展開。


 いかにヒュクロの影響力が小さいとはいえ、これを失った後の統率が一切ない状態のヒュクロ勢は、一気に撃退されていき、奇襲を受けてからおよそ1時間と少々で戦いは終息した。


「南軍の皆……あと東のルイファーン経由、北の夫にも……間違えずに、伝える。わかった?」

「「はいっ、心得ております、ムー様!」」

 ヒュクロの死亡はほぼこちらの勝利と言っていい出来事だ。

 しかし、この後陣での戦闘でもそうだったように、ヒュクロの死を知ったところで各所の敵の士気は落ちないだろう。

 統率こそ欠くだろうが、むしろメチャクチャに暴れ出してより手を焼く可能性すらある……戦いまだ終わらない。



「かかさま、アイツらはどうするのですか?」

 エルアトゥフの言うアイツらとは、生け捕りにした敵のことだ。

 重傷ながらまだ生きているユーヴァとジムカファを筆頭に、この後陣を襲った内、5分の1が捕縛された。


手遅れ・・・ではない方を “ 正 ” なおそうと思います。手遅れの方は……残念ながら死んでしまうかもしれませんが……」

 シャルーアとて、まだまだ修行中だ。

 アムトゥラミュクムのおかげで学んだ知識上は理解できていても、完璧に見極めることはまだ難しい。

 捕らえられた異形の者達は、とりあえず見込み・・・がありそうだからこそ

シャルーアの指示で生け捕りにされた。


『これ以上、我らをドウすルと言うのダ、小娘……』

『さっサと殺しテおいタ方が、身のためダゾ』

 ユーヴァとジムカファは、既に死ぬ覚悟を決めている。負った怪我はいかに魔物化した身でも生を繋ぐには深すぎると、理解しているからだ。


 しかしシャルーアは、慈愛の微笑と形容できるほど、優しい笑みを浮かべる。


 そして、捕虜を1体ずつ別の天幕テントへと呼ぶ手はずを整え―――





『オ、オオォオァアアアアアーーーーーッ??!!!』


『フング、フングンゥンウオウオウゥオォォオンンーーーーッ!!?!』


『ホグェホォウウウァアアアーーーーンンンッ!!!!』


『イ、イッヂマゥウ゛ウウウーーー、ホファアアーーーーッンン!!?!』


 その日、断末魔とも喘ぎとも取れるような、何とも言い難いほど気持ちの悪い叫び声が、その天幕テントより1日中こだまし続けた。


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