第394話 シャルーアちゃんの平常運転
敵の首魁の死が伝わったことで、グラヴァース側の各陣営の士気は一気に高まり、その勢いに押されてヒュクロの手下たちの残りは次々と倒されていった。
それでも、全体の勝敗が完全に決するまでほぼ丸1日を必要としたあたり、魔物化した敵の強さのほどがどれほどだったかが伺える。
「……あれで弱っていたというの? とても信じられませんわ」
ヒュクロ勢の完全殲滅とエル・ゲジャレーヴァ奪還の後、シャルーア達と合流・再開したルイファーンは、これまでの流れを聞いて驚きをあらわにする。
東に陣取り、敵を迎え撃ったルイファーン率いる一軍は、初見ということもあって、かなり苦戦を強いられた。
ルイファーン自身にも敵の攻撃が迫りかけ、危ない局面が何度かあったほどだ。
「まぁ、人間同士やただの魔物とは違い、魔物の強靭さと人間の知能を兼ね備え、かつ囚人の凶悪性が加わっていたワケだからな。今思い返してみると、あんなのが1万もいる状況から、よくやり合ってたものだと思うよ」
グラヴァースは、しばらくはこんな重量感ある
「実際、戦局が大きく動き、敵の数が減り出したのはリュッグ殿たちが合流なされた後からでした。もしあのまま我々だけで延々と戦い続ける事になってしまっていましたら、このような結果にはなってはいなかったでしょう」
アーシェーンの言う通り、グラヴァース軍は善戦こそしていたものの、まだ弱ってすらいない異形の敵を相手に、慎重でもどかしい戦いを続けるしかなかった。
万の敵を1000近く減らすのに何カ月もかかっていたのが、その頃のヒュクロ勢の強さのほどを証明している。
「我らが駆け付けた際はまだ厳しい戦況であったが、最終的にお嬢様とリュッグ殿たちの合流後、大きく戦況を動かすことができたのは事実―――それだけヤツらは強かった」
メサイヤが潔く敵を評価する。
何せシャルーアの乳酒による弱体化効果が顕著にあらわれるまでは、ヒュクロ側の下っ端でさえ、メサイヤとタイマンで戦えるレベルの強さがあったのだ。
王国の正規軍、精鋭の兵士でさえ10人1組でかかって、ようやく手傷を負わせられるかどうかというようなバケモノ達相手に、こうして勝利を迎えられた事は、一種の奇跡だ。
「あら、そういえば……そのシャルーア様とリュッグ様はいずこに??」
ルイファーンがキョロキョロと二人の(主にリュッグの)姿を探し求める。しかし彼らが集った場の近辺にも二人の姿はなかった。
「彼らは捕えた捕虜のところにいっているよ。なんでも魔物化が比較的浅かった者は、元に戻すことができるらしいとかで……」
・
・
・
『ふんぉおおおっーーーーッ、おっ、あっ、おぁあっ、おおぉあはぁあっん!!?」
シャルーアによる、
「おーおー、フェブラーのヤツもすげー声だなぁ」
「そりゃそうだろう。
「
「だな、
その天幕は、捕虜全員を収容していたので、
「ねーねー、アレって結局なんなのー?」
ナーが気になるとばかりに捕虜たちに問いかけた。リュッグ達は、魔物化した人間を元に戻すという効果のほどしか聞き及んでいないので、中で何が行われているのかは分からない。
「なんだ、嬢ちゃん。気になるかい?」
「お嬢ちゃんにはちーと早いかなぁ、ハハ」
「そーそー、もっと大人になってからなら教えてやってもよかったが―――」
「これでも30前なんだけど?」
捕虜たちは一斉に噴き出す。どこをどう見ても、10代半ばの赤褐色肌の少女にしか見えないナーに、驚愕せずにはいられなかった。
「お約束はほどほどにして、一体アレとはなにか教えてくれないか?」
リュッグが改めて問いかけると、捕虜たちは軽く顔を見合わせる。
「なぁアンタ、あのお嬢さんの身内か何かか?」
「? 血縁ではないが、保護者だが」
そう答えたリュッグに、捕虜たちは再び顔を見合わせ、少し哀れむ表情を浮かべた。
「そうかぁ……なら、ショックを受けるかもな。ええと、アレっつーのはだなぁ……」
「ありていに言っちまえば、あー、なんつーの? 男と女の “ 合体 ” っつーか?」
「そうそう、まぁなんていうか一方的に絡みつかれて搾りとられる、みてぇな感じだったけどよー」
娘にも等しい少女の痴態行動―――保護者とかいうこの中年オッサンは、さぞ衝撃を受けるだろうと、捕虜たちはなるべく穏便な言葉を選ぼうと気を遣う。が……
「ああ、そういう事か。なら問題ないな」
「は?」「え?」「んん?」
「だねー、シャルちゃんのいつも通りじゃん」
「なぬ??」「え、いつも通り……へ??」
「あー、何となく分かる気がしやすが、まさか本当に浄化作用があるんですかねー、アレは」
「ええ??」「あ、もしかしてアンタもアレ経験済みか??」
リュッグとナー、そしてアワバもまったく動じない。むしろ捕虜たちの方が衝撃を受けることになった。
ちなみに
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