第379話 原始的兵器 vs 最先端兵器
全体として、優勢に攻め込みつつあったグラヴァース軍であったが、敵が敵だけに、そう簡単にはいかなかった。
――――――エル・ゲジャレーヴァ、北門付近。
「クッ、これ以上は無理になるか……全軍、今のラインを維持するんだ!」
北門の拠点化を進める中、グラヴァースはエル・ゲジャレーヴァ内の最前線に入って指揮をとっていた。
ジリジリと押し込みこそしても、それでも現状では北門から200m少々が限界だった。その理由は、エル・ゲジャレーヴァ内が想像以上に瓦礫だらけだった事にある。
「足場が悪い……くそ」
「おい、そっちに行くな、行き止まりだぞ!」
「瓦礫の山に注意しろ、敵が隠れているかもしれん」
町は崩壊し、その雑然として入りくんだ瓦礫の散乱っぷりは、都市内をかなりゴチャつかせた状態していた。
元々、1辺がkm単位で広いエル・ゲジャレーヴァの街は大都市クラスで、その建物の数も多ければ密度も高い。
それらが全て瓦礫と化して放置散乱状態にあるのだから、そのフィールドは混沌としている。
「(かろうじて大通りの位置が分かる程度、か……)」
かつての自分の治め、作り上げた都市の、なんと見る影もないことか―――北門の一番高い位置に登り、広域を見渡したグラヴァースは、怒りで奥歯をかみしめた。
――――――同じ頃、南門のリュッグ達は、苦戦を強いられていた。
「死傷者、増えています!」「敵の攻勢、勢いを増しています!」
飛び込んでくる報告の数は増え、その全てがこちらの劣勢の報ばかり。
後陣から合流したナーと20数名の兵士達が多少の弓矢を運び入れてくれたので、迎撃はしやすくなったものの、築いたばかりの拠点の一部が、大きく削られるだけの損害が生じていた。
「無理に正面対峙で持ちこたえる必要はない、敵を引き込んで囲い倒すんだっ」
リュッグは声を張り上げ、汗を拭いながらも戦況を注視し続ける。
補充された弓と矢は、明らかに作り終えたばかりといった感じだ。50人足らずにそれぞれ数十本程度とまったくもって少ない。
「(残りの備蓄全てを放出するにはまだ戦況の見通しが……まずいな)」
敵の総数はもう2000もいないはずだ。しかし1匹がこちらの10人と互角という強さなので、戦力という意味では2万近くと言えなくもない。
なので先々の戦況が明瞭でない今は、矢の1本とて節約したい状況だった。
「ナー、弓矢は腕のいい奴らを選抜してくれ。基本は狙撃専門で頼む」
「おっけー。撃ちまくれるほど余裕もないし、妥当だねー」
本来なら、こういった拠点防衛においては雨のように矢を浴びせかけ、攻め寄せる敵全体に
だが圧倒的に矢が足りない。どのような戦いにおいても、矢の使用量は何万本単位が基本―――しかし今、リュッグ達南門のグラヴァース軍の保有する矢の量は1000本も残っているかどうかというほど、底が見えている状態だった。
「(後陣で何とか新しく製造する態勢が多少は整ったと言っていたが……そもそも材料もない。作れたとしてもちびちびとした量が限度)」
敵がただの人間であったのなら、あと5000本ほどあれば事足りる。弓の腕に覚えのある達者に狙撃させれば、1~3本程度で1人を倒すことができるからだ。
しかし……
『ウラァアア!!』
『いつまデも、篭っテいらレルと思うナヨォ!?』
『ヒャハーッ!! シネェ!!』
敵は、異形の変化を遂げた強靭な肉体と生命力を持っている。数10本その身に刺さろうが、ダメージはあっても倒れはしない。
1本1本を丁寧に狙撃に費やしたとしても、1体倒すのに100本以上は余裕で必要だ。
「矢の現地生産も焼け石に水……か。笑えないな」
何とか足場をならして戦場の不利を緩和したものの、今度はヒュクロの手下たちの数名が、火のついた松明を投げ込んでくる。
狙いは打ち込んだ石包みの矢の、石を包んでいた布だ。
足場を乱し、火で攻める―――何ともいやらしい手だ、敵の方の矢は矢じりもついていないというのに、なかなかに効果的にこちらを追い込んでくれる。
「(いざという時は、原始的な技術や知恵ほど役に立つなどとも言うが……こればかりはしてやられたな)」
なおも飛んできている石包みの矢を弾きながら、リュッグは素直に敵の戦術を心の中で褒めた。
「拠点内にいる者は火に気を付けろ、近くに落ちたならすぐに消すんだ!」
「「「はいっ!!」」」
このままではマズイ。何か大きな一手を打たないとジリ貧になるのは目に見えている。
「! リュッグ殿、あそこをっ!」
「? ……しまった、上からも来たか」
外壁の繋がりを切り離してあるとはいえ、魔物化したその身体能力があれば、飛び移ってくる事は可能だろう。
これまで拠点の正面から攻め寄せて来る敵にばかり気を取られ、外壁上からやってきていた敵への注意が遅れた。
『グハハハ! 気付いタか! だがもう遅イ! あとひとっ跳びデ、そちらに届クゾ!!』
「ちぃっ」
拠点化した南門の上、リュッグとその近くにいた数人の兵士がすぐさま武器を構える。
迫る敵は10人少々。対してリュッグ達は5、6人ほど。拠点を上から破られたら上下で挟まれ、一気に味方が瓦解する。
「戦力は不利だが、ここは死守するぞ」
「「「おおー!」」」
『バカめ、そんな数デ迎え撃てルつもりカ、オレ一人デ一息に蹴散らシテやるワ!』
先頭の1体が跳躍する。
確実にリュッグ達のいる位置を着地点とし、飛び込むと同時に攻撃する気満々の態勢で空中を移動する異形の生物。
リュッグは迎撃の構えで武器を向けるが、相手は余裕の笑みを浮かべていた。
「(一瞬の判断が生死をわけそうだな……フー)」
1つのミスはそのまま死。ヘンに冷静になりながらも、飛んでくるヨゥイ化した敵を見据え、間合いに入る瞬間を待った。
本当は一瞬のはずなのに、長く感じる―――スローモーションに見える。
危機に対して意識や感覚が間延びしているのかもしれない。
だが
『死ねェエエ!!!』
「―――……っ!」
合わせた。斬れる。だが敵もその鋭い爪を立てた腕を伸ばしてくる。
互いの攻撃が、互いの身体に触れるまであと数センチ……と、いうところで
タァアアンッ!! ボッ
『んガッ……?!』
目の前の敵の眉間に、穴が開いた。
ドシュッ!!
ついでとばかりに、振るったリュッグのシミターが斬る。しかし、そのまま足元に倒れた敵の身体は動かず、眉間に空いた穴からは薄ら煙が立ち、煙硝の臭いが鼻をついた。
「まさか!?」
リュッグは南の方角を見る。
かなり遠く、砂粒のように小さく見えている影―――おそらくはムーであろう事は、間違いなかった。
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