第343話 再会に集結せしは騒がしくも凄まじき
その日の
「うおぉおお、う、うめぇぇえ!!」
「肉、肉っ、久しぶりの新鮮な肉だっ!」
「くうう……う、うまい……アイツにも食わせてやりたかった……」
苦しい戦いの日々に表向きは強がってはいても、やはり心の底では絶望感があったのだろう。兵士達は久しぶりにやってきた補給の食糧に、身体だけでなく心も癒されていた。
「なんというか……驚くことが多すぎて、混乱してしまうよ」
そう言うグラヴァースの気持ちが良く分かるとばかりに、リュッグ、アワバ、イクルドらはウンウンと頷いた。
「シャルちゃんおっひさー! ってか、お姉ちゃんによると、そっちも何か凄いことになってるんだってー? なんか雰囲気変わったもんねー、大人っぽくなったんじゃない?」
「え、と、あの……わ、私は違うんですけど……その、あうあうあう~」
ナーが気楽に話しかけたものの、それはシャルーアではなく、エルアトゥフだった。
「ナー、シャルーア様は……こっち」
「そんな……様付けはよしてください、ムーさん―――」
「ムーさんとやら、分かっていらっしゃる!」
「さすが母の、友……うむ」
「ママーに敬称を付けるの偉い! うんうん♪」
困惑するシャルーアだが、ザーイムンとルッタハーズィ、そしてアンシージャムンがムーを褒めたたえてしまい、押し切られてしまう。
アムトゥラミュクムの顕現によって長くなった髪や、新調された以前とは異なる服に、肌に浮き出た肌色の紋様が一部残るなど、容姿面でも変化が顕著なシャルーア。
だが何より、アムトゥラミュクムによって一族のアレコレを学んだシャルーアは、以前よりも周囲依存の雰囲気が小さくなり、自分というものが少ししっかりと出来てきたような内面の変化も見て取れる。
特に久しぶりに彼女と会うグラヴァース達からすれば、その変化はよりハッキリと感じられた。
「王都に向かってから、そちらも色々とあったのだな」
「ええ、まぁ……そういえば、こちらにメサイヤ殿も参戦なされていると聞いているが……」
「先ほど陣に使いを出したましたので、すぐに来られるかと思われます」
グラヴァースとリュッグが、お互いに苦労を語り、アーシェーンが事務的に控える。
お腹の大きなムーがいるので、側近としての護衛の意味もあるが、この場に限ってはその役目は考える必要がなかった。
「俺、ムシュラからおかわり、貰って来た……皆、食べる」
「ご苦労様、ルッタ。おお、凄い量だ、俺も手伝った方が良かったな」
「ザーイはもうちょい楽する事覚えてもいーんじゃない? はーい、お肉おかわりきたよー、しっかり食べてモリモリ精つけよー」
やや灰色がかった色味の3人―――明らかに強そうなルッタハーズィやザーイムンだけでなく、アンシージャムンからもその美貌だけでなく、底知れない強さが感じられる。
シャルーアと並んで座らされ、本物当てクイズ―などとナーに絡まれてるエルアトゥフも、その美貌にあふれる姿とは別に、明らかに強い存在感を纏っていた。
アーシェーンがそう感じるのは他でもない、連日の魔物化した人間と戦闘を繰り広げてきたからだ。
殺気を向けられると、その脅威的な強さをピリピリと感じるあの肌感覚。それが、リラックスして騒いでいて、こちらに何ら意を向けてすらいない彼らから、これでもかと感じるのだ。
「……リュッグ殿。その、このような事をお聞きするのは気が引けますが……彼らは本当に危険はないのでしょうか?」
こっそり聞いてくるアーシェーン。すぐ隣にいるグラヴァースも、同じ危惧を抱いていると目で語る。
「気持ちは分かりますよ。正直に言えば、俺もまだ、完全に安全かどうかって言われたら悩みますからね。ただ……」
くいっとアゴを上げて示す方角。
そこには、確かにシャルーアを慕い笑う、普通とは異なる兄弟姉妹の姿があった。
「……少なくとも、シャルーアがいる限りは、安心していいと思いますよ」
「そうか……しかしすごいな彼女は。かつて自分が気軽にナンパした少女が神様でした、なんて話を聞いた時は内心、腰を抜かしたよ」
(※「第179話 お嬢さんっ、お泊んなさいっ」
「第314話 ゴロツキ達の頭は神を畏れない」
「第326話 絶えてはいなかった太陽の雫」などを参照)
「まったくです」
「! やあメサイヤ殿、久しぶりだな」
グラヴァースの
「御無事で何よりです、お嬢様」
「おー、エルアっちと間違えなかった!? やるね、メサイヤ」
ナーが楽し気に茶々を入れるが、メサイヤは当然だと真面目な表情を変えない。
「元々シャルーアお嬢様は髪がお長かったのだ。それに、アムトゥラミュクムが話をしてきた折、姿を見ている―――お懐かしい御姿にございますな」
「メサイヤも元気なようで何よりです。……ですが、アムちゃん様に対する態度は感心できませんよ?」
シャルーアとアムトゥラミュクムは同一の存在だ。
当然、アムトゥラミュクムがメサイヤに接触した時も、五感はもちろん全てを共有していたので、その時のやり取りの様子は全て理解している。
(※「第314話 ゴロツキ達の頭は神を畏れない」参照)
咎められたメサイヤは、その体躯や容姿に似合わず縮こまり、叱られた子供のようになった。
そして天幕内にはドッと笑いが起き、僅かの殺伐としたものも残す事なく、場は和やかな雰囲気に満たされた。
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