第344話 ミュアーク・ドゥアーマ



「……お嬢様、その “ ミュアーク・ドゥアーマ ” というモノは、我らにも頂けないでしょうか?」

 それは、ザーイムンら5人のタッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人達に起こした変化について、シャルーアが一通り説明し終えた時だった。


 メサイヤの問いかけは、何も彼だけがそう思ったわけではない。話を聞いていたリュッグやアワバら、グラヴァースやアーシェーンも同じように関心を持っていた。





――――――ミュアーク・ドゥアーマ。


 それはアムトゥラミュクムが、5人のタッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人達に種の壁を越えさせるにあたり、シャルーアに “ 力 ” を用いる練習がてら、彼らに与えさせた “ モノ ” だ。


 ソレを受けた事によって、どんなに進化・成長しようともあくまで妖異たる生命であった5人は、その生命の殻を破った。魔物の一種ではなく新生命種としてタッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人という生命体を確立したといってもいい。



 そして、それほどの影響を与えるミュアーク・ドゥアーマは、聞く限りリュッグら普通の人間にも適用し、力を強くする事ができるのではないか? と誰もが思った。

 それは人を越えた超生物になりたいとか、そういう事ではない。

 単体で人を上回る魔物化した敵を相手にするには、今以上の強さがなければ今後の戦いにおいて厳しい―――リュッグやグラヴァース、メサイヤらは、強くなれるのならばそれに越した事はないと考える。


 しかし、シャルーアは首を横に振った。


「 “ ミュアーク・ドゥアーマ ” はとても頑丈で強い身体のこのコ達だからこそ、耐えられました。端的に申しますと―――そうですね……たとえば、ここにいる皆さんは、マグマの中を泳ぐ事ができるでしょうか?」

「!」

「……あー、それはー」

「無理ってもんじゃあないですね、そいつは」

 メサイヤが驚きの表情を浮かべ、グラヴァースやアワバが絶対に不可能であるという事を理解する。




「このコ達は、 “ ミュアーク・ドゥアーマ ” に滅ぼされることなく全身を一度焼き、生物としての根源的なところの一部分を滅しました。その上で “ ミュアーク・ドゥアーマ ” のエネルギーを取り込み、そして組み込まれて安定し、現在の状態に至ります。……普通の生命でしたら、おそらく最初に触れた時にその身と魂は完全に滅されて消えてなくなると思います」

 すなわち、タッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人達は、まず全身をくまなく焼き滅ぼされた。そしてその焼き滅ぼしたエネルギーを身体に組み込まれて生まれ変わらせられた、という事だ。


「……なる、ほど。それでマグマの中を泳ぐことが出来るか、って事か」

 リュッグはそれは凄まじいなと、改めてザーイムンやアンシージャムン、ルッタハーズィ、エルアトゥフを順に見た。


「ママの抱擁ですからね、たとえそれで死ぬ事になったとしても、俺は本望でしたよ」

「そんなに危険な感じはしなかったしー。ママーの熱っつい愛だー、ってカンジだったよ♪」

「母、偉大。俺……母の熱、受けられて凄く嬉しい。苦はない」

「何度もイってしまいそうになりましたけど、かかさまがギュってしてくれてましたから、イってしまってる場合じゃありませんでした! ……えへへ」


 おそらく天幕の外で大勢の兵士達にイール肉のステーキを振る舞っているムシュラフュンも同じような事を言うだろう。

 彼ら5人のシャルーアへの敬愛は本物だと言えた。




「あっ、そーいえばママー。あの後から、なんか変わったアザ? みたいなのあるけど、もしかしてその “ ミュアーク・ドゥアーマ ” っていうののせい?」

 アンシージャムンがハタと思い出したとばかりに、いそいそと着ていた服を脱ぎ出し、肌の一部をはだけさせ、後ろを向いた。


 すると確かに、アンシージャムンの背中と首の境界あたりに、円に角のように突起が1つ飛び出したような形で指先大の、赤熱したような色味のマークがあった。


「はい、そうですよアンシー。それは異邦の神玉まがたまと同じ形なんです。ザーイ、ルッタ、エルアに、もちろんムシュラも……みんな、どこかしらについているはずです」

 するとザーイムン達も、本当!? と子供みたいな反応でいそいそと自分の身体を見回しはじめた。


「! 俺、見つけた。マーク……左腕の付け根、あった」

「おお、本当だ、早いなルッタ。俺は―――おお、見つけた、左わき腹だ!」

「いいな、3人とも……私は……あれ?? 見当たらない……アンシー、後ろにないか見てくれないかな??」

「おっけーエルア。んー……~~~? 背中にも、脇のほうも見当たんないけど、お尻とかじゃない、もしかして?」

 上3人はすぐに見つかったのに、エルアトゥフだけなかなか見当たらない。




 3人も協力して末妹のマークを探す―――と、その本人が発見した。


「あ、こんなところにありました!」

「ぬぐ!?」「ぶっ!」「ぬおっ!?」「ちょ、ちょっと待てっ」

 嬉しさのあまり、これでもかとマークを見せ、まるで子供のように報告するエルアトゥフ。


 だがそのマークの場所というのが、右乳房の付け根に近いあたりの内側で、胸元を大きく開いた上に両方の乳房も少し左右に押し開いて見せて来るので、見せびらかしてこられたリュッグ達の視界は当然、ほとんど露出した状態のエルアトゥフの胸で埋め尽くされた。


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