第334話 怪人 vs 巨大ウナギ




 ドドドッ、ドカカッッ!!


『キュウウウウッ!!』

 サーペント・ガ・イールは、思わぬ強敵の攻撃を受け続け、たまらないと苦悶の声をあげた。

 ザーイムンとルッタハーズィの連携攻撃は、巨大な災害級の妖異であっても耐えきれず、命の危険を覚えさせる。




 すると―――


 ズバボッ! ゴゴゴゴゴゴッ


「! ルッタ、敵が潜る、降りろ!」

「俺、分かった。とうっ……着地」


 サーペント・ガ・イールの頭の上に乗って、ビシバシ殴っていたルッタハーズィが着地すると同時に、その長い体躯はすっかり砂漠の中に消える。


 だが、まだ近くにいる―――凄まじい地響きを辺りに響かせながら、砂漠の中を泳いでいる。


「魔物、逃げない? やる気、十分?」

「の、ようだ。このまま逃げるのはプライドが許さないんだろうが……」

 ザーイムンが辺りを見回す。

 やや深めに潜ったのか、砂漠の地表にうごめく巨体の様子は見られない。

 気配は感じられるがかなりのスピードで砂中を泳いでいるらしく、さすがの彼らでも、正確に捉えるのはやや難儀であった。




『(気配だけを頼みにするでないぞ。香りをつけておいたでな……匂いも辿ってみよ)』

「!? ザーイ、頭の中……声、聞こえる?」

「ああ、聞こえた。これはあの、ママに似た気配の……よし、やってみるか」

 二人は頷き合うと、気配を探ると同時に、鼻もきかせた。


 すると―――


「! 俺、わかる。アイツに特有のニオイ、絡んでる」

「すごいな。ここまでハッキリと形が感じられるなんて」

 気配の感知と匂い……その二つの感覚で、砂漠の下でややぼけていた敵の像がクッキリと感じ取れた。


「よし、ルッタ。俺が頭を抑えるからお前は根本を頼む」

「俺、わかった。千切る・・・か、ザーイ?」

「そうだな……なるべく砂の上に引っ張り出してからだ。そのタイミングはルッタの判断に任せる」

「俺、任された。行くっ」




 二人は再び散開。


 ピッタリとサーペント・ガ・イールの頭と尻尾の埋まっているであろう辺りを追いかけるように走り続け……


「! 来る」

 焦れたサーペント・ガ・イールが砂の上に頭を飛び出させてくるのを感知したザーイムンが、軽く身構えた。その直後―――


 ボバッ


『キュアアアアッ!』

 大口をあけた相手が飛び出し、ザーイムンを一息に飲み込まんと伸び上がる。だがザーイムンはあえてその口の入り口に入り、喰われないよう口の上下に両腕を突っ張り抑え、そして口腔の上と下を1度ずつ蹴った。


『!!?!?!』

 タッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人は強い。

 進化する前ですら、その強さはこの世のあらゆる妖異と比較しても最上位に位置していたと言える。

 しかし、そこから更に成長した彼らは、1人でも1国の軍隊を相手にしても平然と戦えるであろう域に達している。


 人間にとっては災害級の妖異といえど、彼らからすればたかだか巨大なウナギ。


 周囲への配慮から慎重に戦っていたが、その気になれば一撃でほふるなどワケないパワーがある。


 そんなザーイムンの蹴りである。あまりの痛みを生じさせたことで、激辛な刺激物のような感覚が口いっぱいに広がったサーペント・ガ・イール。

 悶絶するようにその頭をグワングワン振り乱し、ニュルニュルと伸び上がって砂中からどんどんとその身体を出してくる。


「……。……この辺、俺、千切るっ」

 胴体の中心からやや下。ここを千切れば機動力が損なわれるであろう箇所を自分なりに見極めながら、ルッタハーズィは全身の筋力をパンプアップさせ、兄弟随一の巨躯たる身をさらに強靭にしながら、その両腕にパワーを込めた。


 頑丈な装甲のごとき鱗もなんのその。彼の周囲の空気が揺らいで見えるほどの熱量を発しながら、その尋常ならざるパワーが、サーペント・ガ・イールの肉の一点に向けて放たれた。


 ゴッ……ドパァン!!!!





『!!! キュラァアアアアアッ!!!!』

 あまりのパワーに弾けとんだ肉。身体が分断された激痛に悶絶し、大口をさらに大きく開けて叫び散らかす魔物。

 ザーイムンはその瞬間に鼻の頭を蹴って中空でクルクルと回転、そして―――


「悪く思うな、相手が悪かったと思って諦めてくれ」


 ザンッ!


 痛みゆえに暴れて定まらない頭部。だがその付け根を綺麗に手刀で切り離した。



 数舜、頭を失った胴体が天を向いたまま硬直。そしてゆっくりと……



 ズズゥゥウ……ン……―――ドザンッ


 砂漠に倒れ、その近くに切り離された頭部も落ちてくる。

 災害級の妖異、サーペント・ガ・イールは、たった2人の怪人によって倒された。


   ・


   ・


   ・


「て、手伝おうか?」

 サルダンや兵士達が申し訳なさそうに、それでいて恐る恐るルッタハーズィに話しかける。


「俺、一人で問題ない。お前たち、母、守る。それが役割……―――っフ!」

 一つ短い呼吸をしたかと思うと、ルッタハーズィは砂に埋もれたままだったサーペント・ガ・イールの尻尾までの部分を一人で引っこ抜いた。


 10m以上は軽くあり、いったい何百キロに相当するかも分からない質量。それをたった一人で砂の中から引っ張り抜くというパワーは、やはり人間でないことを改めて思わされる。


「……す、げ……」

「なんて力だ……」

「さっきのは全力じゃなかったのか??」


 兵士達は呆気にとられる。こんなにも強力な一個の生物を見た事がないと、驚くばかりで結局、何もできなかった。



『フフッ、情けないものよな。……にしてもお前達、迎えに来てくれて我は嬉しいぞ。いかに元が元とはいえ、より遠くの気配を感じ取れるようになっておるは、感心ぞ』

 アムトゥラミュクムはエルアトゥフとザーイムンを前に、喜ばしいとばかりに微笑む。

 が、当の二人は少しだけ困惑気味だった。


「……本当にママ……なのですか?」

「少し、かかさまと違う……でも、ほとんどかかさまの気配……??」

『ふむ、そう感じるのも無理はない。我はお前達の “ 母 ” の中の一片に過ぎぬでな。親の親の親の……ずーぅっと古き親まで遡りて、受け継いできた力が表出し、このようになっておるが、安心するがよい。何も変わってはおらぬのでな』

 そういってアムトゥラミュクムは、よしよしと二人の頭を撫でた。


「!」

「……かかさま、です」

 その撫で方は、かつてのシャルーアの撫で方と寸分たがわない。いかに真似たとて、他人は所詮他人。

 特に鋭敏な感覚を持つタッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人達は、決してそこを間違えることはない。


 気づけば二人は、アムトゥラミュクムに抱き着いていた。



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