第324話 アムトゥラミュクム様は怠惰に過ごす
朝。
『ふむ……まずまずよな。人の身にしてはよく頑張った方か』
アムトゥラミュクムが天蓋のベッドの上で身を起こす。
正直、衣服など必要ないのだが、人間はその辺りにうるさい。なので仕方なく完全に起き上がると、隣で白目をむいているドゥマンホスを放置し、ベッドから降りた。
『……はて、どのように着付けるモノであったか??』
シャルーアが着用していたドレスなら分かるが、今着ているモノは後宮の側妃達が持ってきて着せ替え人形よろしく着させられた。
なので正しく着用する方法が分からない。
『まぁ、適当でよかろう。最悪、胸と股が隠れておれば文句は言われまいて』
本当に人間というものは、つまらない羞恥心から倫理観なるものを振りかざすのが好きな生き物だ。
繁殖に繋がる情欲や、それを催すことは生物として健全なこと。四の五の理屈を並べ立て、本来の生態にそぐわない論理をその生に取り入れている生き物は人間だけだ。
神の目から見ればあまりにも馬鹿馬鹿しい。愚かとすら言える。
だが、だからこそ惜しいのだ。知能の高まりは、数多の生命たちの中でも貴重……
『(もっとも、甘やかしすぎよっては
自分も
……そして、部屋を出て数歩で他の側妃に見つかり、酷い着付けっぷりに驚かれて僅か数秒で部屋にリターンバックさせられ、着せ替え人形になるのだった。
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『ふむ……美味よな』
かつて本体が生きていた頃は今世の料理といくつか同じようなモノ、あるいはその始祖の料理ともいうべきモノが存在していた。だがそれらは、お世辞にも美味しいと言えるほどのモノではなかったと記憶している。
それに比べ、今世の料理は美味しくないモノを探す方が難しいほどで、その点についてだけは、アムトゥラミュクムは大いに気に入っていた。
「アムトゥラミュクム様、こちらも美味ですよ」
「こちらの方がよろしいのでは? 焼き菓子ばかり続いていては飽きてきましょう」
「私は本日はこちらの出来が特に良いと思いますわ、ささ、御一ついかがですか?」
側妃達がアムトゥラミュクムに群がる。それぞれがお菓子を持っているのだが、神に
『(―――まるで愛玩動物の気分よな。まぁ美味なるモノを食わせてもらいよる手前、愛でる不敬も多少は
こういうトコロがあるからこそ、人間をつい許してしまう。
愚かな者が時折でてくるのは致し方のないこと―――そこまで考えて、やはり神々が人間の傍を去ったのは正解だとアムトゥラミュクムは思った。つい甘やかしてしまう
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後宮での1日は安穏としている。
基本はぐーたら生活だ、特別何かやるべき事はない。しかしそれはサボっているというワケでもなかった。
『(ふーむ、シャルーアはまだかかるか。我もこのまま顕現しておれる時間は長くはないが……―――あまり力を使わずに温存せねばならぬな)』
神の力は膨大なエネルギーを使う。
こうして表に顕現しているにしても、あくまでシャルーアの一部たるアムトゥラミュクムである。どうしても不安定な存在と言わざるを得ない。
それを安定させているのは他でもない、シャルーア自身の持つエネルギーだ。
日中は、ヘンに思われないよう、それでいてなるべく多く飲食物をとりながらエネルギー消費を抑えている。それがぐーたら生活の理由だ。
『(とはいえ、エル・ゲジャレーヴァの者どもにも加護を与えておる今、エネルギーの消耗をこれ以上抑えることはできぬし……さて、どうしたものよなぁ)』
今、アムトゥラミュクムが密かに行っていることは
―― 自身の受肉のための “ 器 ” 作り。
―― エル・ゲジャレーヴァで戦う味方への加護。
―― シャルーアの魂の学びの実行。
――
―― 王都とその周辺地域に “ 鬼人 ” およびその眷属の気配を常探索。
特にエネルギーを消費しているのがエル・ゲジャレーヴァの援護だ。常に一定のエネルギーを送っているので、消耗の総量がかさんでいる。
『(
エル・ゲジャレーヴァの件が落ち着かない限り、状況がどう転ぶか不明なので、おちおちシャルーアに戻し、受肉もしていられない。
つまりこのまま、しばらくはアムトゥラミュクムとして顕現したまま、エル・ゲジャレーヴァの魔物化した囚人たちをどうにかする法を取らなければならないと、アムトゥラミュクムは思案し、そして今後の方針を決めた。
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