第303話 元淫売たる娘、神たる者と対談す
「神が降臨したんだって!?」
「陛下が儀式を行って喚んだって話は本当なのか??」
「それで今日はやたら慌ただしかったのか」
王宮内は混乱状態となり、なかなか落ち着かない。
当然だ、王宮に務める者の大半はそのことを又聞きの又聞きで、正確なところが上手く伝わってこず、情報が半ば錯綜し、ほとんどの者が状況を掴めずにいた。
しかし後宮の方はというと、早々と落ち着きを取り戻していく事となる。
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『ふむ、仕事が早い。さすがはボウヤの子孫よな』
アムトゥラミュクムは用意された部屋に入る。ゆっくりと椅子に腰をおろすと、座り心地を確かめつつ、悪くないと笑みをこぼした。
「……、……」
その様子を、これでもかと緊張して見守る側妃が1人……アムトゥラミュクムはクックと笑う。
『
「ふぁ、はっはひっ、ありがとうございますっ」
ハルマヌークの返事の声が上ずる。
いくら楽にしろと言われても、なかなか難しいものだ。特に陛下から厳に、失礼なきようにと言われてしまっているため、後宮の側妃達は落ち着きを取り戻したとはいえ、強い緊張感を持たずにはいられなかった。
『まぁ、昔から人という生き物は、
遠い過去を懐かしむアムトゥラミュクム。機嫌の良さそうな様を見て、この機に少しでも打ち解けるべきかと思い、ハルマヌークは勇気を出して何か話かけようと思った。
「え、えーと、あの……―――」
つい “ 本当に神様なんですか? ” と聞きそうになる。
しかしそれは一番失礼な問いだと途中で思い至り、言葉を飲み込んだ。
考えてみればそうだ。たとえば王様に “ あなた本当に王様なんですか? ” なんて聞いて、無礼でないはずがない。
だが途中まで何事か言葉を投げかけようとしてしまった以上、何か言わなければならない。アムトゥラミュクムも、ん? と彼女の言葉を待っていた。
「えと、しゃ、シャルーアちゃんと同一……、って、同一人物ということなんですよね?」
『いかにも』
「ええと、その……普段のシャルーアちゃんとその違いがあるのは、ええと……た、多重人格とかそういう感じなんでしょうか??」
即興で何かないかとひねり出したにしても苦しい。これも見方次第では無礼になってしまうかもと、ハルマヌークは言ってから不安になった。
だがアムトゥラミュクムは特に機嫌を損ねることもなく、椅子の手すりに体重を預けてその身を偏らせるようなリラックスした態勢を取る。
『人格、という意味では確かに、汝らから見ればまるで別人のように見えよう。が、そのところを人の感覚にて正確に理解するは難しいであろうな……。なぜならば、我が見て、聞いて、感じ、体験している全ては、シャルーアとて同じ時同じように感じておるし、それはこれまでの全てにおいて我にも同じことである』
「……えっとそれって、シャルーアちゃんが経験した事も、貴女様は常々感じておられた、ってことですよね?」
『うむ、だがそれだけではないぞ? 考えること、決定すること、そして判断……あらゆる事において、我とシャルーアは同じ時、同じタイミングにて同一であった。それは今も変わらぬ―――何せ我らは、完全に同じ人物であるのだからな』
はっきり言ってしまえば分からない。
どう見ても、どう聞いても、今のアムトゥラミュクムとシャルーアは、口調も態度も性格も異なっているように思えるからだ。
なので完全に同じ人物であると言われても、ハルマヌークにはなかなかしっくりとは来ない。
『言うたであろう? 人の感覚では正確に理解するは難しい―――と。我の行動も発言も、考えることもシャルーアと同じであり、またシャルーアの行動も発言も、そして考えうる事もまた、全て我と同じ……しかし、これは何もシャルーアに限ったことではない』
「え? それは……」
『我が愛し子……すなわち代々の子孫たちである。遥かな昔、我は人と交わり、子をなし、我が血を継がせた。我自身は当の昔にこの世を去っておる……血に宿りし我が片鱗たるを受け継ぎし子孫……それこそがシャルーアという1人の少女であり、今ここにいる我なのだ』
するとアムトゥラミュクムは、片手をすぅっとあげる。優雅な仕草だが、指先にはやたらと明るい輝きを放つ小さな火の粉が複数現れた。
それらはフワリと浮かび上がり、中空で舞い、やがて交わるような螺旋の軌道で持って、再び彼女の手の平の上に降り立つ時には、全てが合わさって大きな一つの粒となる。
『シャルーアは、特に我の血を濃く継いだ愛し子。ゆえに我……血に受け継がれしモノがこうして顕現するまでに至ったのだ―――ゆえに我は、厳密にはアムトゥラミュクム本人ではない。あくまでもシャルーアであり、シャルーアの血に溶け込みしものであり……ふむ、そうよな、
すると大きな粒の光が、今度は素早く分裂して部屋の外に向かって飛んだ。
途端―――
「あっちちっ!?」
「きゃああ!!
「燃える燃えてるう!?」
部屋の外で、無数の側妃達の慌てふためく声が響いた。
『好奇心ありて話を聞きたいのであらば、然様にコソコソと盗み聞くものでない。女は自分に堂々としておるくらいの方が良かろうというものぞ?』
すると誰がいるでもないのに扉が開かれる。
アムトゥラミュクムがクイッと指を自分の方に曲げるジェスチャーをしたかと思うと、側妃たちが次々と宙を浮かびながら室内へと引っ張られてきた。
―――その光景に唖然としながらも、ハルマヌークをはじめ後宮の者達は、やはり彼女は “ 神 ” であるのだと理解を深めた。
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