第277話 残された下っ端たち




―――リュッグとシャルーアがヴァリアスフローラに面会しにいった翌日。


 

「やっぱ帰らなかったか」

「ああ……こりゃあ多分……」

「唯一の伝手っていうのも敵でしたパターンだね」

 ミュクルル達は、リュッグとシャルーアが相手に捕らわれたと見て思案していた。




「相手の名は確か―――ヴァリアスフローラとか言ったか」

「そう、何でも後宮の妃教育係だって話だから、ちょっとマズイ相手かも」

「どういう事です、マズイ相手……というのは?」

 不思議に思ったイリージンがミュクルルに問う。


「後宮の関係者ってことはさ、確実に王様とも面識があるって事でしょ? もしかしたら二人を捕えたのだって、王様の命令が後ろにあったかもだし」

「うっへぇ……そいつぁ確かにマズイな、1番相手にしたくねぇぜ」

 舌を出してこの上なく嫌そうな表情を浮かべるデッボア。

 そして自分の首を両手で絞める仕草をする―――下手すると死刑だと言わんばかりに。


「しかし、味方だと思っていた相手が実は敵でしたっていうのが厄介だな。事情があるにしろないにしろ」

 ハルガンはそう言うと、腕を組みながら片眉をピクピクさせ、困ったなと奥歯を噛み締める。

 するとそこに、アワバが帰ってきた。



「今戻ったぜ。幸い、アッシらが王都に滞在する分には問題ないようだ、リュッグ殿が手配してくれてたよ」

 リュッグは、万が一に備えてアワバ達を傭兵ギルドに紹介しておいた。おかげでアワバ達は、王都のギルドで仕事を請け負い、報酬を得ることができる。



―――紹介制度。


 通常、傭兵になるにはギルドにて審査や試験を受け、合格しなければならない。だがそうした手間を省いて傭兵の数を増やすべく設けられているのがこの紹介制度だ。


 傭兵として長く活動している実績ある者であれば、他者を傭兵ギルドに紹介する事が出来る。

 紹介された者は、傭兵として登録されるわけではないが、準傭兵とでもいうべき者として “ 助扱 ” じょきゅうという形でギルドに名が登録される。


 基本は正規の傭兵と何ら変わらない活動が可能だが、その行動の責任は紹介者が持たなければならないため、通常は見どころのある者しか紹介を受けられない。


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「じゃ、私らは王都に滞在していられるっつーわけね?」

「ああその通り。リュッグ殿も言ってたが、こういう展開になった以上は長期戦で少しずつだな。実際、どうにも王都の中は何ともいえねぇモヤモヤした雰囲気だし、アッシらが日銭稼げる手段としちゃあ傭兵仕事は悪くねぇ」

 むしろ最適解だ。メサイヤ一家は世間的にいえばただのゴロツキ集団、身元もなにもあったものじゃなく、真っ当に働くにしても “ 俺達は賊でーす、テヘペロ ” なんて言う輩を雇うところなどない。


 むしろ一発で警備を呼ばれ、お縄になる身だ。


 しかし傭兵仕事なら話は別。他所から大勢の傭兵が王都に来ているし、仕事をしているので、よそ者でもイチイチ怪しまれないし、仕事の内容次第では金を稼ぎながら二人を救出するための調べ事も出来るだろう。


「なーるほど、そいつぁ願ったりかなったりだな」

 アーリゾがようやく理解したと言わんばかりにアワバの話に頷き返す。


「アッシらは身元がバレちゃあアウトだし、逃げ切れても面が割れちまえば王都での活動すら困難になるからな。……だが、傭兵仕事ならイチイチその辺深堀される心配はねぇ。この辺はリュッグ殿の準備はさすがだったってこったな」

 実際、アワバ達の知らないところで、リュッグは多くの準備を整えてあった。


 この宿にしても、むこう数か月全員分の代金は支払い済み。


 さらにいくつかの飲食店で食事をした際も、アワバ達の事をあえて良く言うような会話を、飲食店スタッフの耳のあるところで会話に織り交ぜていた。


 思い返せばあれも布石だったのだろう。万が一リュッグ達が離れ離れになっても、アワバ達が行動しやすいよう、小さな事ながら計らってくれていた。



「すっごい気遣い……どんだけいい男なのよ、リュッグさんって」

 しかも、場合によっては無駄や徒労に終わるであろう事までマメかつ周到にしてくれていた。

 ミュクルルは驚きよりも呆れる気分で笑う。


「ま、実際そのいい男が向こうさんに捕らわれちまったんだ、残してくれてるモンは遠慮なく使わせてもらおうぜ」

 むしろそのために準備してくれていたといってもいい。デッボアの言葉に他の4人も頷き返す。




「とはいえ……どうする? 何なら親分に連絡して援軍に何人か―――」

「いやいや、無理だろアーリゾ。親分に連絡とか、死ぬ気か??」

 ハルガンは恐ろしいと言わんばかりに身震いした。


「確かにねー。お嬢様とリュッグさんが捕らわれちゃったーなんて言ったら……」

 ミュクルルの言葉がなくても、全員の脳裏にキれるメサイヤの姿が明確に思い浮かぶ。そのイメージが、自分達をしかりつけてくるようですらあった。


「その手は万が一、だな。……ただ外部に助けを求めるっつーのは悪くねぇ話だ、が……」

 アワバは相手を選ぶのであれば、有用な手の一つとして思案する。



 だが本来はゴロツキ集団な彼らに、メサイヤ一家以外ですぐさま頼れる助っ人など思い至る者などいるわけもなし。

 とにかくリュッグ達と事前に取り決めた通り、長期戦の構えでジリジリと、二人の救出の手立てを考えつつ、調査と傭兵仕事に従事する事にした。



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