第268話 大国を蝕むは繁殖旺盛なる下女



 ファルマズィ=ヴァ=ハール王国、その東隣の大国であるジウ=メッジーサは、早くから近隣諸国でも一番の侵略意欲を見せ続け、日々ファルマズィを伺い続けていた。


 にも関わらず、いまだ事を起こして実際の軍事行動に移ってはいない。


 ファルマズィが侵略に備えているから? 前線が持ち帰った情報から好機とは判断できなかったから? 近頃北のヴァヴロナが軍をちらつかせているから?


 ……否。大国ジウに侵略を留まらせている決定的な理由は他にあった。





「……まだ機会ではないと」

『戦争により混沌とした状況へと推移しなくては意味がない、一方的に短期で決着がつくような戦争を仕掛けるは避けよ……との仰せ』

 黄緑色の・・・・ローブを深く被った女―――キューブレンは、ジト目でだらしなく太った男を見据えた。

 同時に布団の中で男の性器を強く掴み、ねじるように強い刺激を加える。


「~~~ッ!! わ、分かっておりますとも、キューブレンさまっ、重々承知の……お、おおおぉっう!!」

「ならいい。もげるのイヤなら、ゆめゆめ間違いないよう誘導する……わかった?」

 そう言って軽く男の胸板を舐める。それは愛撫行為ではなく脅迫だ。チラリと見え隠れしている、犬歯と言うには鋭すぎる牙が舌の横で疼いていると言わんばかりにキラリと光った。


 彼女もローブの下は素っ裸だ。濃いキャラメル色の肌が照明の光で艶めき、青色のややボサボサした髪の先端が男の鼻下をくすぐる。

 青紫に黄色の混じった独特な瞳は、神秘的とも狂気的にも感じられ、見つめられた者は興奮とも恐怖とも判断つかない感覚に陥る。


「わ、わかっております、分かっておりますとも! わたくしめはキューブレンさまの忠実なる下僕げぼく……いえ、奴隷でございますゆえ、決してご期待を裏切りはいたしません、はい!」

 ローブの下に覗く姿―――肥え太っているとはいえ体格がそれなりに良い大臣から見れば、自身の半分くらいの大きさしかない、少女にしても小さすぎる女の子。


 だがそんな体躯にはアンバランス過ぎる乳房と臀部おしりが、男に異様な性的興奮をもよおさせる。

 事実、キューブレンは表向きこの男の侍女として、ジウ王国に堂々と籍を持っていた。


 だが実際の立場は完全に真逆であり、ジウ王国の大臣たるこの男の手綱を握っているのは他でもない、キューブレンの方であった。


「物分かりのいいコは好き。ご褒美をあげる」

 そう言うと少女はローブを完全に脱いで寝そべる男の上に座った。青い前髪の隙間からはチラりと尖ったモノが見え隠れしていた。


「ハァああああぁあぁぁっ、こ、こうえいでございますぅうう、キューブレンさまぁああっ~~~っっ♪♪」








――――――キューブレンには2つの役目がある。


 1つはジウ=メッジーサに常駐し、国の中枢に働きかけてその動きを制御すること。

 そしてもう1つは……


「ふ……ぅん、……んっ」

 ドリュズリュドリュルルルッ!!


 日中の日差し、誰もいない風呂場に落ちる影の、キューブレンの股の辺りから暴れるように飛び出す別の影。

 完全にキューブレン本体から離れた影はやがて大きくなっていき、人の形を成した。



「ほお、まずまずではないかキューブレン。ソレの父親は当たりか?」

「! バラギ様。お久しぶり」

 上司の突然の訪問に驚きつつも、キューブレンは特に動じる事も恥じる事もない。

とりあえず素っ裸のままなのは失礼と思ったのか、ローブだけ羽織った。


「相変わらずのようだな、キューブレン。こちらは調子が良いようで何よりだ。なにか問題は?」

「んー、特になし。強いて言えば立場上、相手を・・・なかなか増やせないことが不満」

 キューブレンは “ 彼ら ” の中でも特にズバ抜けた繁殖能力を有している。


 交配が可能であれば相手を選ばず、しかも交配からわずか1日で産み落とせる。

 しかも生み出せるソレは “ 半生命 ” と呼称されているもので、いわば自律型ロボットのような生命体であり、母体となるキューブレンが自由に操る事が出来る。

 それも同時に何千体・・・・・・だろうとも自由自在に・・・・・だ。


 しかし、その個々の能力は交配相手にも大きく依存する。なのでキューブレンにとっての最大の悦びとは、より優れた“ 半生命 ”を産ませてくれる相手と交配すること、コレに尽きた。



「それは致し方がない。だが少しは便宜を計らってやれるよう、考えておこう」

「さすがバラギ様、話わかる。……バラギ様はやっていかない?」

 そう言ってキューブレンは自分の武器である身体をアピールする。


「フッ、以前シオニュークと作った際、制御がきかず使い物にならなかったのだろう? お前の能力は凄まじく、また我々にとっても有用この上ないものだが、色々と試した結果、人間相手が最もバランスが良いと理解したというではないか」

「その人間で、満足いく相手がいない……デブばかり相手でさすがに飽きる」

 そう言ってぶー垂れるキューブレン。

 その横で、生まれたばかりの彼女の倍の背丈はあろうかという半生命が佇んでいる。


 すでに人間達に紛れ込ませている、キューブレンの半生命の数はいかほどか数えきれないほどだ。その全てをこうしている間もこの少女は、それぞれ全てをちゃんと管理し、行動させている。

 その特殊な能力も素晴らしいが、何より凄いのはその膨大な処理能力だった。


「それでバラギ様、ご用件は? 何体か戦力入用?」

 彼女が産んだ半生命は基本、全てが彼女の支配下にある。だがキューブレンが認めれば、他にその管理・操作を任せる事が可能。


 なので “ 彼ら ” の戦力供給源としてもキューブレンは大いに活躍していた。


「いや、しばらくはこちらにいるのでな。お前にとって望ましい結果を得られるかどうかは分からんが、そろそろ今よりも手を広げて・・・・・もらう事にした」

 キューブレンはジウ王国では表向き、大臣の侍女お楽しみたる女という立場だ。


 しかしそれでは活動できる範囲にも限界がある。



 かなり早いうちから侵略意欲の旺盛なジウだが、まだ事を起こされるには早すぎる。

 なのでキューブレンが働きかける範囲を広げ、ジウ王国をより確実に制御してもらう―――この日からバラギは、そのサポートとしてジウ=メッジーサ内にて暗躍し始めた。



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