第163話 遭難に至る可能性の数々
シャルーア達が
ラッファージャの宮殿は王国の正規軍に制圧され、ラッファージャと抵抗した彼の私兵達は全員お縄になった。
それから丸1日、リュッグ達は王国正規軍による宮殿内の調査・確認が終わるのを待ってから、シャルーアとジャッカルを探すべく行動を開始しはじめた。
「まずは馬車のルートをさかのぼっていこう。砂塵などで痕跡は残っていないかもしれないが、ヨゥイに襲われ、戦闘があったのなら落下物や散乱物があるかもしれないからな」
「よし、早速向かおう。一刻も早くシャルーアさんをお救いせねばっ」
ゴウはようやくと言わんばかりに気合いが入っている。本当ならすぐにでも探しにいきたいのを堪えての3日目だ。この巨漢が奮起するのも無理からぬことだった。
「私たちも何かに襲われるかもしれないし、準備は万端にしとかないとね」
「……弾薬、よし……食べ物……よし、……水、たっぷり……」
出発直前でも荷物チェックに余念がないムーとナーを、ルイファーンが不思議そうに見る。
「弾や食べ物は何となくわかりますが……水はこれほどまでに積んでいく必要がおありに??」
決まったルート、10kmという距離、しかも途中に設けたベースキャンプが維持されているので、言ってしまえば水だけでなく食糧もそんなに必要にはならない。
にもかかわらずリュッグやムー、ナーら、傭兵達が準備したのは、丸々1週間は余裕で飲み食いできそうなレベルの分量だった。
「リーファさん、我々は何が起こるか分からないのを前提として準備を行うんです。砂漠では想定の斜め上のことが起こる……森羅万象に備えることは出来ずとも、何かが起こったと仮定し、その後とりあえず生き延びる事ができるだけの備えはしていくものなんです」
「なるほど、私が浅はかでしたわ。さすがリュッグ様ですっ」
そう言って腕に絡むように抱き着いてくる。このお嬢さんは本当にブレないと、リュッグは軽くため息をついた。
サーナスヴァルを出発してから1時間少々。
リュッグ達を乗せた馬車は、以前設けたベースキャンプに到着した。
「やはりここまでの道のりには何かしらの手がかりはなかったな」
「うーん……大きくルートを外れてサーナスヴァルへ向かってった可能性もあるかもだけど、もしそうだったら捜索は骨が折れそうだねぇー」
リュッグとナーは、サーナスヴァルとこのベースキャンプの間にいる可能性を模索するが、これといった手がかりはないので推論しか捻り出せない。
「やはりここから宮殿の裏口までの間が本命か。……待っていてくださいシャルーアさん、今このゴウがお迎えにあがります」
「……いるかどうか、わからない。ウゴゴー……妄想、走りすぎ。冷静、なれ」
現時点ではむしろルート上にはおらず、無事でない可能性の方が高い。
何せ3日が過ぎているのだ。
もし無事であれば、サーナスヴァルを目指して移動を再開しているだろうし、仮に馬車がダメになっていたとしても10kmの道のりは歩きでも1~2日あれば踏破できる。
しかしベースキャンプまでの間にその痕跡らしきものがないとなれば、シャルーアとジャッカルのどちらか、あるいは両方とも怪我を負って動けないでいるか、ルートを見失ってあらぬ方向に行っているか、あるいは……
いずれにしろ二人の位置の特定すら難しい状況だ。まずは小さくても手がかりを得ることが何よりも重要になる。
「(シャルーアには遭難時のあれこれも教えてある……同行しているというジャッカル―――我々が宮殿に行った際に門番をしていたあの男が、仮に緊急時に疎い人間であったとしても問題はないはず)」
一見すると延々と砂漠が続いているような場所でも、一切使える物がなくとも、水を得たり夜の寒さや昼の暑さをしのぐ方法などのサバイバル知識は教え込んできた。
なので仮に、食べ物も飲み物もない状態で遭難していたとしても、自分の教えがシャルーアの中に生きていれば、二人が数日中に野垂れ死ぬ可能性は小さいと、リュッグは考える。
「(死んでいないのであれば動けない状態にあると考えるべきか。怪我を負っているとすると厄介だが、そうでないなら動けない理由は迷子? ……、……もしそうだとして、他7台もの馬車が迷う事なく進んだルートで迷いはぐれることがあるとしたら――――――まさか?)」
単純にルートを見失っただけの可能性はある。が、もしも
以前、人間の一生に1度すらも高確率と言えるほど、遭遇率が超低い不可思議な妖異についてシャルーアに教えた時のことを、不意にリュッグは思い出した。
「(―――
むしろそうであってくれたら一安心できる。
なので、ただ何もない砂漠に放り出されるよりは生存率が高い。
馬車や積み荷が無事であればさらにサバイバルの難易度が下がり、数週間あるいは数か月は猶予が出来る。
「……よし、とにもかくにもだ。次は予定通りに宮殿裏口へと向かうルートを辿ってみるとしよう」
推測ばかりを深めていてもしょうがない。
まずは現場をめぐって確かな手がかりを探す。だが馬車を走らせはじめたリュッグの心持ちは、かなり楽になっていた。
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