第126話 魔物の栓に閉ざされた道
国境の村、エッシナはまさしく戦場の雰囲気だった。
「宿で聞いた話の通りのようだ、ファルマズィの正規軍旗の向こうに、魔物どもの姿が見える」
ゴウが双眼鏡をおろすと、ジャスミンが見せてくださいと所望する。
「……。魔物の群れのいるあたりは、完全にケイル領内のようですね」
「ウム。これではどのみち、国境を越えた先もどうなっておるやら分ったものではなさそうだ」
ゴウとジャスミンが国境の方を伺ってる中、リュッグ達はエッシナの入り口で正規軍の兵士に詳しく話を聞いていた。
「ここまで酷くなったのは5日ほど前のことだ。だが、魔物自体は1週間だか2週間前くらいから出没し、当初は大したことはなかったと聞いている……すまんな、私は後から増援で来た者ゆえ」
「いえ、話を聞かせてもらえるだけでありがたい。……それで、ヨゥイとの戦況のほどは?」
すると兵士は、お手上げとジェスチャーで示した。
「まず厄介なのが国境。魔物の群れは常にこちらに攻め入る様子を見せてはいるが、実際に越境して来ることが少ない。魔物が群れているのが
ファルマズィの正規軍が越境してまで魔物と戦えば、ケイル側がどんな反応を示すか分かったものじゃない。
かの国もかねてよりファルマズィに対して攻め気が見られるが、現状ではケイル側に大義名分はなく、しかも現状ではファルマズィとは物流をはじめとして、外交の観点でも微妙に戦いづらい両国関係にある。
だが、もしもファルマズィ側から侵攻してきたという名分を得られれば……
「こちらから手を出すわけにはいかん。しかし、魔物どもがこちらに攻め入ってくるのは限定的で、なかなか殲滅に至れん……我々も苦慮している、すまんな」
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エッシナの村は完全に軍の前線基地となっていて、リュッグ達が留まれる状況にない。
なので一行、村から少し離れた位置でキャンプを展開し、落ち着いた上で状況を整理した。
「魔物の群れが
ミルスが笑えんと表情で語る。
「
フゥーラは眉をひそめながらこの辺りの地図を眺める。迂回ルートを探しているようだが、そもそも国境を越えた入り口の根っこが封じられている以上、ルートも何もあったものじゃない。
規定の場所以外から国境を越えるのは国際的に違反―――重罪かつ、侵略行為の一環として弁明の余地も許されずに処理されても文句が言えないので、ケイルに入るにはエッシナから越境するしかない。
「正規軍もエッシナから動く事が出来ない。ヨゥイの群れと散発的にやりあってるのもそうだが、どうも後ろにきな臭いものがある可能性を感じているようだ」
「きな臭い? ……それはなんだい?」
ナーダの問いに、リュッグは僅かに間をとってから静かに一言だけ口にした。
「―――ケイルの過激派」
「「「!!」」」「「?」」
それだけで察した者、まったくわからない者で反応は真っ二つに分かれる。
「要するにケイル内の、ファルマズィへの侵略賛成派が何らかの方法で魔物をけしかけてる可能性がある、っていう疑いだな」
現在の状況が、あまりにもケイル側に有利すぎる。魔物の群れ自体はケイル領内だが、不利益はファルマズィに偏っていた。
「ヨゥイの群れが国境を越えてファルマズィになだれ込めば、その混乱に乗じて戦端を開いて初動を有利に進めるし、ファルマズィ側の正規軍がヨゥイの群れを討伐するために越境してくれば、それに難癖つけて侵略の名分を得る……」
本当にいやらしい話だとリュッグは辟易する。そういう国同士のいざこざに巻き込まれる身にもなって欲しいものだと恨み言を言いたいくらいだった。
「付け加えるならば、魔物をこちら側へと引き込むべく、ファルマズィ正規軍が後ろに退けば、やはり魔物の群れに乗じててケイルの侵略が……といったところだろうな。その辺りの兆候を軍は掴んでいるのであろう。ゆえにエッシナからは動けず、チマチマとした防衛戦を続けるより取れる戦略はないというわけだ」
リュッグとゴウの説明で、シャルーアを除いて場にいる全員が状況を理解した。
「もしかすると、レックスーラの町に滞在していらっしゃるケイルからの方々も、あちらの布石であるのかもしれませんね」
ジャスミンの言わんとしていること。それはケイルから来たガラの悪い連中は全員、事前に潜入させておいて内側から崩すための工作員であるということだ。
それなら他国で恐れ知らずにも無法な真似に走るのも納得できる。
近々母国が攻め込んでくるならば、たとえ捕まったとしてもすぐ釈放してもらえる―――ケイルによる町の占領でもってして。
「んで、表向きは単なる国に帰れないで鬱憤溜まった旅行者か何か気取りか。最低だね、陰湿な手だ」
ナーダは嫌悪感たっぷりに吐き捨てた。
あくまで他国の民間人―――何ならわざと犯罪をおかして捕まり、後で不当な扱いを受けたとか主張して、母国の侵略大義に貢献しようとすらしかねない。正々堂々とは程遠いやり口は、ナーダでなくとも眉をひそめる行いだ。
「それで……どうする、私達?」
聞いてきつつもムーは愛銃を取り出し、折りたたんでいた銃身をジャキンという音と共に伸ばして展開。完全にやる気を見せていた。答えは分かり切っていると言わんばかりだ。
「……。はぁ~、やはり
「? どういう手なのだ、リュッグ殿?」
何か良い手があるのかと期待を込めて詰め寄るミルスに、リュッグはハッキリと制するよう、片手の平を見せた。
「ミルス殿らとナーダ達は遠慮してもらいたい。今回ばかりは傭兵の経験ある者じゃないと、適切な機微が分からないやり方だからな」
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