剣の舞い
第101話 勇まぬ足は正しく生き抜く
リュッグ達は一度、ジューバの町へと戻ってきた。
あくまでも調査、戦闘が目的ではない。まず生きて脅威の情報を持ち帰ることが、何よりも重要だからだ。
「そんなにも手強いのか、そのヨゥイは……」
事が事だけに、ジューバの町の傭兵ギルドを仕切る支部長に直接目通り、リュッグは知る限りの詳細を語った。
「ええ。鋭い刃物も、強力な打撃もたいして効きません。以前やりあった時は
未知の魔物に遭遇することは稀にある。その危険度はピンキリだが、中には今回のように相当にヤバイ件も過去にはあった。
なので傭兵ギルドは場合によっては町長などにも話を通す義務がある。町長も町が惨事に見舞われるわけにはいかないので、真剣に対策を話し合うだろう。
それでもまず、倒すための算段をある程度はつけなければいけない。こちらはプロ、あちらは素人なのだから。
「それらしい個体は以前にもこの近くで目撃されている。もし近辺を縄張り化しているとすると、由々しき事態だ」
「動きからして、町の周りを巡回しているような印象があります。可能性は十分高いでしょう。……パン支部長、早急に手立てを考えるべきでしょう」
パン=レドア。
ジューバの町の傭兵ギルド支部長で、見た目はちょびヒゲをはやした商人っぽい雰囲気の白人系男性。
以前は10人パーティで傭兵業に従事し、他国で活躍していた経験を持っている。引退後、故郷のジューバに帰ってきた後、その経験を活かしてギルドの事務員をしていたが、ギルド本部から抜擢を受けて支部長に就任した。
「リュッグくん、キミの見立てで構わない。そのヨゥイについて、もう少し詳細を。今のところ犠牲になっているのは傭兵ばかりだが、いつ傭兵以外も襲われるともしれない。すぐにでも対策を練るとしよう」
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リュッグが込み入った話をしている間、ナーダとシャルーアはジャスミンのお見舞いに行き、一通り話をしたあと町中をぶらついていた。
「確かにあのヨゥイは危険な雰囲気だった。何というか、熱をもたない冷酷さみたいなものを感じたよ」
「リュッグ様も以前遭遇なされたとき、重傷を負われました。町に近づくように移動なされていましたので私達の発見が早く、お助けできました」
(※「第45話 安心と不安の中で」参照)
「強さ自体はさほどでもないとリュッグは言っていた。危険はおそらく、攻撃があまり通用しないという点だな」
どれだけ強力な攻撃にも耐え抜き、かつ動きも鈍らない。それでいて渡り合えるといっても気を抜けるほど弱いわけでもない。
話を総評するならそんなところだろうとナーダは考える。
そういう意味ではまだ、あのローブの男の方が攻撃で負傷とそれに伴う体勢の崩れなどが見えただけ、相手をするにはマシだった。
「未知の魔物との戦いは危険が付きものなのは当然だけど、いやらしい相手だ」
「ナーディアさんは、未知のヨゥイに遭遇なされた時は、どのように戦われるのですか?」
「よしとくれ、ナーダでいいよ。……そうだねぇ、当然どんな相手かにもよるが今回のリュッグのように、情報収集に徹するってのが理想だ。けど不意遭遇の場合はそうもいかない」
シャルーアは彼女の話を真剣に聞く。逆にそういう態度を取られると、適当なことが言えないので、ナーダは心中で勘弁しておくれよと苦笑した。
「それでも前提は “ 逃げ ” さ。その上で戦い方を考える。危ない、その場で倒せないヤツだとしても、自分が逃げて生きて帰れりゃあ、情報を持ち帰ることができる。それで他の被害者を減らせるだろうし、自分が戦うにしろ、準備と態勢を整え直せるわけだからね」
もちろんそれは、逃げ切れた場合の話だ。相手によっては逃げられない、逃がしてもらえない状況に追い詰められる可能性も高い。
特にナーダは、この辺についてはどう話したものか困ってしまう。ナーダ自身、個人としては正しく達人ではあるし、魔物との戦闘経験は豊富だ。しかし、一国の女王である彼女は必然、幼少期より一人で行動する事が少ない。
当然戦闘時は、従者や部下が常に傍にいるので、出先で危険な魔物に遭遇したとしても、だいたいその場で打ち倒してしまえている。
つまり理屈から講釈を垂れては見たものの、自分の経験則でいえば彼女はシャルーアに語ったような行動を取った事がないのだ。
「んー、そうだねぇ……。その辺に関しちゃあ、リュッグの方が経験も豊富で分りやすく教えてくれるだろうね。そういう時はどうするのがベストか、後で聞いてみるといい」
悪いと思ったが投げた。説得力のない自分がこれ以上語っても正確さに欠ける。シャルーアの教育という意味でも、リュッグが教える方が良いだろうと、理由付けして自分を納得させる。
反面、ナーダもある意味これは良い機会だと思った。
「(従者であるジャスがダウンしている今、我の周りに部下はおらぬ。リュッグ達に手を貸し、共に未知の魔物に当たることは良い経験となるな)」
元よりそのつもりではあったが、より意味を見いだせたことが喜ばしい。
ナーダが腕を組んでウンウンと一人で何やら納得している様子を見て、シャルーアは不思議そうに小首をかしげた。
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