第102話 お仕事.その8 ― リビングアーマー ―
詳細はいまだ不明瞭だが、仮として
リュッグ達は、ジューバの町から50mほど離れた場所にあらかじめ組み上げておいたテントや防柵を運んで設置。
すばやく対策拠点を設営して目標の出現を待つ作戦を取った。拠点内には様々な武具が揃えられ、その他の物資はもちろん、治療の準備も整えられる。
そこにはリュッグ達の他にもジューバにいた数人の傭兵と、傭兵ギルドのパン支部長の姿もあった。
「良いのですかパン支部長殿、貴方まで出張ってきても?」
「ええ、危険ではありますがね。未知のヨゥイとなれば今後のことも考え、直に戦闘の様子を見て置いた方が良いと思いまして。なぁに、私も元傭兵ですから、足は引っ張りませんとも」
「良いか? 敵はあらゆる攻撃が効きにくいと聞いている。攻撃を当てたからといって一瞬でも気を緩めるんじゃないよ。基本は都度
「「はいっ」」
参戦する傭兵は全部で10人。それが、3人ずつに分かれてリュッグ、ナーダ、シャルーアの指揮下に入り、残り1人がパン支部長の護衛をする。
ナーダの隊が最前で敵の真正面を担い、中衛として側面や後方に回るのがリュッグ隊。そして二人の大外をシャルーアの隊が担い、サポートや援護を行う。
「ええと、未熟者ですが皆さま、よろしくお願い致します。私達はナーダさんやリュッグ様の隊の方々に新しい武器の補充、傷ついた方の後退と治療、距離をあけての援護攻撃といったお役目をすることになりました。どうか皆様のお力をお貸しください」
「「おうっ」」
全体的に参加した傭兵達の意気は強い。何せギルド支部長がみずから現地に参じているのだ。ただの討伐仕事と違ってリターンも大きく、今後にも影響する。
とりわけナーダとシャルーアの隊の傭兵達は、特に士気が高かった。美女と美少女のもとで戦えるのだからそれも当然だろう。
そして拠点を設営し、彼らが最後の確認を行っているその時、砂塵の向こうからまるで準備が整うのを待っていたかのようなタイミングで、ヤツは姿を現した。
「怯むな! 回避優先、無理に手を出すな、見極めろっ!!」
「くっ、鋭い! いいのを貰うな、一撃でリタイヤすんぞ!」
「中身がカラのくせにこの手ごたえかっ! 鎧も一体何で出来てんだ、コイツ!」
傭兵達の咆哮じみた声が鳴りやまない。
文句・指示・注意―――様々な言葉が飛び交う。さながら乱戦状態にある戦場のよう。相手はたった1体だというのに。
「ここだっ、俺サマに任せろぉぉぉ!! るぁぁあっ!!」
ドガゴォンッ!!
ひときわ巨大なハンマーを振るったのは、中肉中背ながら腕の筋肉だけが異様に鍛えられた傭兵の一人だった。
金属の板を痛烈に打った音が辺りに響く。
「! いかん、ハンマーを手放すんだ、離れろっ!!」
すぐ近くに位置していたリュッグが、その傭兵の腹に片腕回し、後方へとぶん投げる勢いで引っ張った。
ビシュンッ!!
「ぬぉお!!? ……今のはヤバかった、目前を刃がすり抜けていきおったわ、感謝するぞリュッグ殿」
これがリビングアーマーがヤバい理由だ。
どんなに会心の一撃をお見舞いしても怯まないし止まらない。
むしろこちらが攻撃の直後の硬直で大きな隙を作ってしまい、敵の澱みないカウンターにさらされてしまう。
「(以前、俺が遭遇した時は武器を持っていなかった……だとすると今使っているモノは、傭兵を殺した際に奪ったものか)」
(※「第38話 簡単なお仕事に不吉の旗を添えて」)
そういえばこの刀も一度、奴に取られてしまったなとリュッグは思い返す。中身もなく、その生態は一切不明なヨゥイ。
しかし相手の武器を収奪し、扱う事が出来る。見ると以前、自分がつけた傷の他に、
パッと見は完全にボロボロ。もし誰かが鎧として着用したとしても、もはや鎧の意味は成さないだろうほどだ。
だが、その動きはまるでダメージを負ってるように感じさせない。
「(やはり……鎧そのものは本体ではない?―――)―――むんッ」
ガァンッ!!
リュッグは考えつつも、死角を見つけては
また一つ、相手の鎧に
・
・
・
「(異様だね、コイツは。最初から生き物の感じがしないのもそうだが―――)―――フッ!!」
シャギィッ!!
鎧の表面を削るような斬撃を見舞うナーダ。へこみ、穴があき、切り刻まれた鎧の装甲は歪みに歪んでいる。なので、ちょっとした衝撃でも……
バギンッ
鎧を鎧と成している止め具や接合部分が音を立てて弾ける。ところが、それが絶対に起こらない箇所がいくつかあった。
「全員聞け! ヤツはボロボロに見えてキズつく箇所とそうでない箇所がある! 傷つかぬ箇所は、おそらく奴の形を最低限とどめておくためのポイントと見た! 攻撃の狙いをそこに絞れ!!」
「なに!?」
「! それが奴の弱点か!」
「それはどこだっ?」
やや疲れが見え始め、致命傷はなくとも傷が増え始めた傭兵達の目に力が灯る。ナーダの一声で光明が見えたからだ。
しかし拠点から傷薬を運び、前衛を張っていた傭兵一人の応急手当をしていたシャルーアは、不意に妙な寒気を感じた。
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