第64話 知己と汗が浮かび滲む
シャルーア達が外で気を揉んでいると、村の入り口にいきなりリュッグとハンムの姿が現れた。
「! あそこにリュッグさま達が」
「な、なんだ、急に現れた??」
「ずっと村を観察してたが、誰か出てくる様子は……どういうことだ??」
彼らが困惑しているうちに二人はキャンプまで走り寄ってくる。
「今戻った、とりあえず緊急の危険はない。こちらには問題はなかったか?」
「ハッ、ありません。平穏そのものでした」
ハンムが兵士達に確認を取ってよしと頷くその横で、リュッグはシャルーアに向き合っていた。
「村そのものは平和だった。あの老婆―――村ではオババと呼ばれている者が、外部から来た者には誰もいないように見える魔法を定期的に行っているんだが、その理由に少しばかり問題があってな……シャルーア、薬湯は?」
「はい、言われました通りに煮込んでいます。材料の薬草もまだ半分以上残っています」
その解答にリュッグは頷き、ハンムが煮込んでいる薬湯の方を確認してから二人の方を見た。
「ということは、あの薬湯を治療に用いるので?」
「いえ、おそらく効果はありません。ですがヨゥイ化の理由がハッキリしない以上、周囲への伝染が起こらないとも限らない。まずは、魔物化した男の周囲に薬湯の蒸気を焚きつけようかと。……念のため、ないよりマシ程度ですが」
薬湯から立ち上る湯気には魔物を忌諱する効果がある。ベースキャンプの安全性を高めるためにシャルーアに煮込ませていたわけだが、魔物化した者の治療を考えるにしても、他の者まで魔物化するような事態は抑止しなければならない。
何か魔物化する成分のようなものが発せられている可能性を考慮して、リュッグは村の中で薬湯を焚くことを決めた。
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一行は準備を整えて再び村内へと戻ってきた。今度はシャルーアとハッジンもいる。
フワァ~……
魔物化した男性の家の周囲を、薬湯の湯気がゆっくりと滞留し、徐々に濃くなってゆく。
「これでまずは良しとしよう。……オババ殿、倒した魔物と接触したのは彼だけなんですね?」
「ああ、そうじゃ。勇敢にも立ち向かってくれたでな、その代償がコレでは不条理に過ぎよう……」
そう言って、オババは哀しそうに
「リュッグ殿、やはりその魔物が原因でしょうか?」
「可能性が一番高い、という意味では。ただ……ヨゥイに接触したからヨゥイ化するという話は聞いた事がない」
原因を究明せんとリュッグ、ハンム、オババが話し込んでいる中、ハッジンは嫌な汗をかいていた。
「(まさか……旦那の仕業か? この村もなんかの
さすがに人間の魔物化というのは初耳だが、ハッジンが思い当たるのはお得意様であるあのローブの男ことバラギだ。
彼は他の村でも何やら実験と称して
もしそうだとしたら、絶対に自分とバラギの関係を知られるわけにはいかない。そして、そのためにも余計なことは言わずに黙しているべきなのだが、既に一つ懸念がある。
それはベースキャンプで村が不思議に輝いた際、その魔法の名称をつい呟いてしまったことだ。
なぜ知っていたのかと追求され、怪しまれたらマズい。
「……そういえばオババ殿は、あのような魔法をどこで修得なされたのです? ただでさえ魔法は難解な学問のようなもの……一朝一夕に覚えられるものではありますまい」
ハンムが興味からオババに問う。そのことにハッジンはギクリとした。
バラギが使っていた魔法とまったく同じなのだから、彼女が口にする答えは容易く想像できる。
「以前、村に寄られた旅人に教わったのですじゃ。村には宿がありませぬゆえ、村の者が自分の家に一晩泊めましてな、その礼だと。あいにくと村で魔法の心得があるはワシだけ
「(ヤバいヤバい、その話をあんま掘り下げられたら―――)―――あ、あー、あのさ、それでその……
そもそもこの村に来ることになったのは、ハッジンが魔物の死体処分の依頼をギルドで引き受けたからだ。
魔物化した理由がそこにある可能性が高いので二次被害を避ける意味でも、まだ着手していない。
かといって仕事を終わらせなければ報酬はもらえないし、やらなくともギルドに何も報告なしでいる事もできない。
「フム……そうですな、魔物化が他の者にも顕著に見てとれるようになったのは3日ほど前でしたかの。しかしそれ以前―――あの者がようよう魔物を退治して4,5日が経過した頃から風邪のような症状を訴え、養生しておったのです」
オババの話からして、やはり魔物の死骸もしくは魔物と戦ったこと自体に原因がありそうだと、リュッグとハンムが頷き合う後ろで、ハッジンは話題を上手く逸らせた事に安堵する。しかし――――――
ドシンッ!!
「痛ぇっ!? な、なんだぁ???」
不意に、隣からの強い衝撃に襲われて床に倒された。
何事かと思いながら確認すると、何故か隣でちょこんと大人しく座っていただけのシャルーアが、押し倒してきていた。
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