変態S

池田蕉陽

変態



 中年の男はノートパソコンの画面に釘付けになっていた。本来、それは授業の際に生徒たちに配布するプリントや問題作成のためにしか使用しないのだが、今回ばかりは用途が違っていた。


 今男が舌なめずりをしながら見ているのはリアルタイムで流されているカメラの映像だった。そこには女子トイレの個室が下からのアングルで映し出されている。もちろん男が就任している高校のだ。そして今男はその女子トイレから少し離れたところにある物理準備室でモニタリングしてるわけだ。当然ながらその部屋には男一人しかいなかった。


 チャイムが鳴った。とうとう待ちに待った休み時間が来たのだ。女子生徒たちが束になって尿を足しにくることだろう。位置的に男が小型カメラを設置したトイレにやって来るのは三年生で、それは男が狙ったことでもあった。


 一人目の餌食が来たのはチャイムが鳴り終わって一分が過ぎた頃だった。


 個室の扉を中から閉め鍵をかけると、その女子生徒は紺色のスカートと黒色のパンツを下ろしながら便座に座った。男はその瞬間を唾を飲み込みながら画面に顔を近づける勢いで凝視していた。


 男の餌食となったその女子生徒の名は秋山 玲奈といい男が授業を受け持っているクラスの生徒だった。普段は大人しくてあまり喋らない無口な子らしいのだが、パンツのデザインが派手でやたら色っぽいことに男は少々意外に感じながら興奮していた。


 いつもやらしい目で見ていた女子の陰部を不正な形で拝見するというのは男にとって少し罪悪感を感じさせつ、しかしそれがかえって男を余計に興奮させるものとなっていた。


 既に下半身は勃起していて、男はズボンとパンツを腰まで下ろし自分のそれを握った。激しめに手を動かしたせいでものの数秒でいきそうになってしまう。


 しかし一分も経たないうちに秋山 玲奈は用を済ませたらしく、パンツとスカートをあげ水を流すなりトイレから出ていってしまった。それと同時に男も手を止めた。次の獲物で終わりにしようと考えているのだ。


 だがそう上手くは行かず、秋山玲奈を最後に休み時間は終わってしまった。必ず女子生徒が男の設置した個室に入るとは限らないのだ。


 男は畜生と思い、ノートパソコンを閉じようとした。


 その時、画面のカメラに人が映るのを男の視界が捉えた。チャイムが鳴ったにも関わらずトイレにやってくるとはけしからん女子生徒が入ってきたのだろう。男はそう思った。


 しかし、そうではなかった。カメラが捉えている映像は男を唖然とさせるものだった。


 その個室にトイレに入ってきたのは女子生徒ではなかった。男子生徒だった。秋山玲奈と同じクラスの橋本健二という男子だった。橋本はいわゆるイケメンというやつで女子からの人気も絶えなかったはずだ。そんな彼がどうして。


 頭の処理が追いつかないまま、橋本はズボンとパンツを下ろし、当たり前かのように便座に腰を下ろした。


 男子トイレと間違えたのかと思ったのだが、橋本はその場でマスターベーションを始めた。明らかにそこが女子トイレと分かっていての行為だと男は確信した。それほど橋本の頬が紅潮としていて異常な目付きをしていたのだ。橋本に対して男のあそこは通常よりも縮こまっていた。


 男はもしかしたらと思った。こいつは秋山玲奈に異常な程の恋愛感情を抱いていて、さっき彼女がそこの個室を使用したのを知っていて今そのようなことを行っているのではないかと。


 そんな考えが頭をよぎると、橋本が


「ああ、もうイきそうだよ、ああっああっヤバい、イくとこちゃんと見ててね……


 その瞬間、男は橋本と目が合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

変態S 池田蕉陽 @haruya5370

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ